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20174/19

【Brexit日記】宅配お兄さんが消える日【EU離脱期限まであと710日】(by hanako)

*【Brexit日記:英国がEUでなくなる日まで】ロンドン在住ハナコが見つめる「イギリスのEU離脱(Brexit)」。離脱完了までを生活者目線で見つめます。

2017年4月18日(月)

「イマココ!」今話題のEU離脱ニュース
2017年4月9日 BBCより:「Leave Means Leave(EUから徹底的に離脱する)」キャンペーンを推進する保守党陣笠議員のグループは「現在年間273,000人受け入れている移民を5,000人に減らすべき」「高度技能を持たない移民は向こう5年間禁止すべき」と語っている。一方でBrexi反対派は「(移民を制限することで)経済界はもとより、保険医療サービスも人手不足になり打撃を受けてしまう」と主張。

2017年4月14日 Independentより:NGO「European Citizen Action Service 」が運営する欧州市民のための無料法律サービスに2016年に寄せられた相談は 20,491 、内イギリスに関する相談は3,500件。EU離脱の決定を受け、イギリス居住権(ビザ取得者の家族の居住権も含む)、入国手続き、社会保障についての質問がほとんどを占めたとのこと。

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通販で買い物することが多くなって久しい。商品をPCで「ポチっ」と押せば家に届くなんて本当に便利! そして私は現在ほとんどのお仕事を日本からいただいており、掲載誌の配本や資料を航空便(郵便)や国際宅配便で送っていただいている。加え日本の両親からの小包もよく届く。

つまり仕事や生活を維持する上で、デリバリーにかなり依存して生きている

ああ、なのに…。この家(=日本で言うマンションの1室)に引っ越してきて以来、私は深刻な「郵便問題」には悩まされ続けている。

ウチは駅前通りの角にあるのだが、建物の周りがぐるっと歩行者専用の‟広場”的なもので囲まれている。つまり建物の横に車を止めることができないのだ。車が近づけないのだから建物に専用駐車場があるわけもなく、建物玄関から広場を挟んで道路まで最短で100m。でも最短地点はバス停で、一般車両は駐車不可。そもそもロンドンで路上駐車をするのは至難の業だが、ウチの場合、”最低”200m以上歩かないと路上駐車できる場所がない

この状況で、何が起こるかと言うと、

かなりの確率で小包の配達をスッとばされてしまう!

のですよ。

…ヒドイでしょ?(涙)

とは言え、実はスッとばす配達員さんの気持ちが分からなくも…ない。

配達先の近くにパーキングがない

「遠くに車を止め、エッチラオッチラ重い小包を運んでも、不在かもしれない」

「その場合、またこのク○重い荷物を抱えて車に戻るのか?」

「めんどくさい…」

「ひとまずスッとばし。後から不在表を郵送して、一時預かり所まで取りにこさせればいいや」

…たぶんこう思うのでしょう。

後から郵送で届く不在表には「配達員○○はX月△日、XX時に配達しましたが不在でした。つきましては■■で荷物を保管しています」と書かれているものの、「その時間、家にいたし…」「”ピンポン”もならなかった!」という場合多し。荷物が重ければ重いほどスッ飛ばし確率が高くなる(←ワタクシ調べ)ことからも、不在かどうかなんて確かめず配達放棄されている様子。

小包が重ければ重いほど家まで運んでほしい。重くて持って帰れないものほど、通販で買いたい。それなのに重いとスッとばされるという、意図と真逆の現象。毎回不在表を持って、一時預かり所まで引き取りに行っている。

建物の位置が変えられるわけではないので、引っ越ししない限りは完全解決しそうもないこの問題。かな~り困っている。

なるべく「大物レベル」の商品は通販で買わないなどの方法でトラブルを最小限にしようと努力しているものの、日本から届く小包や通販でしか買えないものは配達に頼るしかなく、出来る事と言えば無事に届くよう祈ることのみ!毎日大物小包が届くわけではないけれどデリバリーへの依存度は高いので、まあまあストレスを感じている。

しかし世の中捨てたもじゃない。“良い人”というのはいるのである。

ここ数カ月、数回に1度の割合で小包が届くようになった。それが日本から届く30キロレベルの「大荷物」だったりするともう本当に嬉しい。宝くじに当たったような気分になる。

この「数回に1度」を配達してくれるデリバリーのお兄さん、毎回同じ人なのである。

ウチの周辺は午前中に英国郵便(ロイヤルメイル)による封書の配達、午後にParcel Force(ロイヤルメイルの宅配部門)による小包の配達が行われているのだが、小包配達担当者が何人もいるのは知っている。不在表に掛かれる配達担当者の名前が毎回違うし、道で配達しているところもよく見るけれど、毎回同じ人ではないからだ。

でもウチに無事荷物を届けてくれるお兄さんは1人だけ。絶対同じ人なのである。

どんな重い荷物でも必ずウチのドア前(日本的には2階、イギリス的にはFirst Floor)まで運んでくれる、心優しきお兄さん。毎回感謝の気持ちでいっぱいだ。

「ありがとう」を伝えたいのと、「毎度重くて申し訳ないけど、せめてあなたの担当のときはウチの荷物スッとばさないでね♡」の(今流行りの)“忖度(そんたく)”の意味もあり、玄関にいつも“ちょっとだけお菓子”を用意して配達に備えている。

チョコレートとかスーパーで買ったビスケットとか。本当に小さいものだ。

毎回同じお兄さん。毎回同じ「ちょこっとお菓子」のやり取り。さすがにお兄さんも慣れてきて、受け取りサインをしながら少し話をするようになった。

「今日寒いね」
「今日のは重かったよ(笑)」
等々。

話すと分かる。絶対イギリス人じゃない。東欧系のつよ~い訛りがある。

「いつも日本から小包くるね」

と聞かれたので、チャンスと思い

「日本人なの。あなたは?」と聞いてみたら、

「僕、セルビア出身なんだ」

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ロンドンに来たばかりの頃、カフェやレストランで働く人、ホテルのレセプション、ショップの店員、タクシー運転手など、特に接客系の仕事をしている人の外国人率の高さに驚いた。当時は家と学校の往復をしているだけだったので、イギリスにいるのに学校の先生以外はイギリス人と接することもなく1日が過ぎることが多かった。安いカフェに入ってお茶を頼むことも新鮮だった頃だが、対面で接客してくれる店員にイギリス人は少なく「一体イギリス人はどこで働いているのかな?」と思ったほどだ。

統計を取ったわけではないのであくまで生活者としてロンドンに暮らしての感覚だが、外食産業や接客業、長時間体を使って働く肉体労働に従事する外国人が本当に多いなあと感じている。来たばかりのころは「日本で抱いていたロンドンのイメージ」と違う、あまりに人種・民族入り混じるロンドンの姿に驚いたものだったが、今ではそれが日常の風景。ベタベタの日本語訛り英語で話しても、相手もそんな英語に慣れているので結構通じる。そんなコスモポリタンな街だからこそ、いろいろ痛い目に遭いつつも何とかこの街で15年生活していけているのかもしれない。

(注:私はロンドンでしか暮らしたことがなく、イギリスの他の地方ではここまでコスモポリタンではないとは思う。)

==

閑話休題。配達のお兄さんの話に戻る。

あるとき日本製のチョコ菓子をあげた。するとちょっとけげんそうな顔をして、小さな箱を縦横斜めにひっくり返してしげしげと眺めている。

どうしたんだろ?

「これって、ゼラチン入ってる?」

ゼラチン!? なんでそんなこと聞くのかな? と思いつつも、箱の裏側の原材料表示を見たがゼラチンは入っていない。

「ああよかった! 僕、宗教上の理由でゼラチン食べられないだ」

ありがとう、またね~と笑顔で去っていくお兄さん。不思議に思って、即ネット検索してみると、ああそうか。彼はムスリムだからゼラチン食べられないんだ…。

以後、彼に渡すお菓子は「ゼラチン抜き」かを確認している。

===

保守党の一部国会議員による「Leave means leave(EUから徹底的に離脱する)」キャンペーンを推進するグループから、上記「イマココ」ニュースに書いたような「高度技能を持たない移民を受け入れを禁止/制限する」と言った声が上がっている。今後EU離脱の具体的交渉が始まるが、イギリスが欧州単一市場から離脱し、国境を厳しく管理し、欧州司法裁判所の管轄からも離脱する「Hard Brexit(徹底的なEU離脱)」を目指して活動しているグループだ。

私は移民であり生活者として、このキャンペーンをサポートする人たちが思い描く「EU離脱後のイギリス」がよく分からない。

レストランのウェーター、テイクアウト店でチキンを揚げている調理スタッフ、農園でイチゴを摘む労働者、そして重い荷物を運ぶ配達業者。そうした労働の現場にどれだけたくさんの外国人が働き、役割を担っているのか、イギリスに住んでいる人は分かっているはずだ。

こうした労働者を全部イギリス人に取り換えたとして…それで社会がスムーズに周る様子が全然想像できない。

混みこみのレストランで忙しくお客をさばく店員さんたち。こういう仕事をするのがぜ~んぶイギリス人になる様子を、「Leave means leave」推進派のエライ国会議員さんたちは想像できるのかな?

「移民が増える→イギリス人が職を失う→だから移民を減らしたい」と考える構図はシンプルだ。しかしそんなにシンプルな国はなりたっていないはず。誤解を恐れずに言えば、私にはイギリス人が不得手/やりたくない仕事を外国人は一気に引き受けてくれているからこそ国や町が機能しているように見えるのだ

重い荷物を笑顔で配達してくれるセルビア人のお兄さん。私にとってのこのお兄さんのような存在が、きっと誰にでもいるはずだ。あまり表からは見えないけれど、日々の暮らしを助けてくれる人― 移民がそんな役割を担う部分は大きい思う。

失って初めて大切だったことに気づいても遅いのに。「縁の下の力持ち」の代わりの人をすぐに見つけることなんてできないのに。高度技能を持たない1移民の私には、近い将来、縁側がぐらぐらしているイギリスの姿ばかりが想像できてしまうのだけれど。

 

※上記はイギリス・ロンドンで外国人として暮らす、私の個人的意見です。
※イギリスにおける職業別国籍区分などのデータを基にして書いておりません。あくまで個人的感想です。
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