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【Brexit日記】不安の中の希望【EU離脱期限まであと676日】(by Hanako)

*【Brexit日記:英国がEUでなくなる日まで】ロンドン在住ハナコが見つめる「イギリスのEU離脱(Brexit)」。離脱完了までを生活者目線で見つめます。

2017年5月22日(月)

「イマココ!」今話題のEU離脱ニュース
Brexitが大きな争点と言われた英国総選挙だが、ここに来てBrexit以上に「ナショナルヘルスサービス(国民保健サービス、通称NHS)」の各党の方針が注目されている。2017年5月19日ガーディアン紙は各党のマニフェスト内容を分かりやすく報道。NHSについて掲げている内容は以下の通り。本当であれば労働党の政策はスゴイが、非現的の声も。逆に保守党の80億ポンドは「ひかえめすぎ」との批判もある。

保守党:次の5年間で国民保健サービス予算を「最低80億ポンド(約1兆1,520億円)」に増額。
労働党:国民保健サービスへの予算上限を撤廃。次の議会会期中に300億ポンド(約4兆3,200億円)予算を追加する。
自由民主党:1人当たりの所得税に1ペンス(約1.44円)増税し、60億ポンドを国民保健サービスと社会福祉サービスに使用する。

===

数週間前、日本の実家からの大きな、しかも悪いニュースが届いた。

母が肺ガンと診断されたのだ。

しばらく咳が止まらず、気管支炎なのか?肺炎なのか?と近所の病院で検査を繰り返し「もしかして…」と思ったかかりつけの医師が母を大学病院へまわした。内視鏡検査(肺および気管支の内視鏡検査は苦しい)で組織を採取し、その結果「肺腺ガン」と診断された。

咳はでていたものの、他の自覚症状はゼロ。ずっと元気な人だった。たばこは生涯1本も吸ったことがない。ウチの家族は誰もタバコを吸わないから、「もらいタバコ」も極端に少なかったはず。それだけに母が肺ガンになるとは意外だった。

ウチにはこの数年で何度も手術し、30年来の糖尿病による合併症が原因で左目を失明している父もいる。両親は共に70代後半。北関東にある街(私が育った街)で2人で暮らしている。

兄(会社員)は東京、しかもかなり神奈川県寄りの街に暮らし、私はロンドン。どちらも遠くに在住しているので普段の生活を手伝うことは出来ない。母は父の入退院や手術に付き添い、片目になってからは父の目の代わりとして頑張ってきた。

父はずいぶん昔から「お母さんより1秒でも先に死にたい。後に残さないでほしい」と言い続けている。そう思う気持ちはよく分かる。

だから今回の母の肺ガンのニュースに、誰よりもショックを受けているのは父だと思う。

ガンと分かったその日、私は診察を受けたばかりの母からのメールでそのことを知った。内視鏡検査を担当した医師が、採取した組織を見て「まずガンじゃないね。ポリープかな?」と言ったと母に聞いていたので、「きっと大丈夫」と信じていた。だから驚きとショックでどうしたらいいか分からなかった。

母が病院から戻ったら電話で様子を聞こう、状況によっては明日にでも帰国しようか? そんなことを思いつつまだ勤務中のはずの兄にLineを送り、何度かチャットしていたが、その後の兄の行動は早かった。すぐに会社を早退し、新幹線に飛び乗って実家に行ってくれたのだ(兄、感謝!)。

兄が実家に到着したことで少し様子が見えた。肺腺ガンなことは確かだが、PET検査(陽電子放射断層撮影)をしないと転移の有無やステージが分からないので、まだ治療法が分からないとのこと。

自覚症状のない母は咳が止まった今、具合が悪いとか苦しいとかはない。だから今ジタバタ騒がず、PET検査の結果がでるまでは静かにしておこう、と兄と相談した。

PET検査は先週終了。検査の結果は明日(23日)に出る。

その日までいろいろ考えても仕方ない。検査に関わった医師や病院スタッフ以外、誰も結果を知らない。すべてを知っているのは神だけだ。

実は私はキリスト教徒(プロテスタント)である。キリスト教系(聖公会)幼稚園に通ったのが原点だが、ずっと教会とは疎遠だった。しかしロンドンにきてから教会に通いはじめ、6年前に洗礼を受けた。

「どうしてよいか分からない」局面に出くわしたとき、「神にすがることができる人生」を選択してよかったと心底思う。神に祈り、母のこと、父のこと、すべてを神にたくす。すべての思いを祈りの中で訴える。そして「神は越えられない試練は与えない」という言葉を心から信じ、噛みしめる。そして明日の結果を、今静かに待っている。

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そんな日本の家族の現状を前に、今回のイギリス総選挙で国民保健サービス(NHS)が焦点の1つとなっていることは感慨深い。

無料だから、移民や外国人がたくさんやってきて医療を受ける。予算が全然足らない。NHSは崩壊寸前。そんな話をよく聞く。

在英15年も経つが、この国が長いこと抱えている国民保健(医療)制度についての問題を実感してこなかった。この国で働き、生き、税金を払ってきたが、結婚したり家を買ったりするまではどこかイギリスでの生活者としての自覚が欠落していた。「どうせ選挙権ないし」と居住国なのに外国を見るような気持ちでイギリスの政治や社会制度を見ていたところがある。

なので制度上の問題点については今多くを語れないが、感謝を語ることはできる。これまで何度もお世話になった。救急車に乗ったこともある。でも1度もお金を払っていない(※薬代は一部負担している)。以前は保険会社の医療保険に入っていなかったが、それでも安心していられたのはイギリスに無料医療があったからに他ならない。

無料だからなのだろうか、家庭医に予約の電話をしてもなかなかでない。すぐに予約が入らない。受付の愛想はいつも悪い。融通が利かない。何か訴えても「まずは痛み止めで」となかなか検査してもらえない― そういったことは多々は経験済みだ。でも2年に1度は婦人科検診のお知らせが届き、ある年齢を過ぎると3年に1度乳がん検診も無料で受けられる。お金がなくても、医療は受けられる。ライフラインの1つが守られていると感じている。

私の両親は共に後期高齢者であり年金生活者だ。年金から毎回ドサッと引かれる保険料、そして病気と共に医療費がかさみ続けることに不安を感じている。これから始まる母の治療、これからも続く父の治療。長い間2人は共稼ぎで働いてきたが、そんな2人の70代に医療費の不安が付きまとうことにやるせない思いがする。

だからこそ今回の選挙後のイギリスの国民保健サービスの動向に注目している。イギリスは今後EU離脱交渉に突入する。離脱決定後、家の値段は下落の一方だし、大企業は次々に本社のイギリス国外移転を決めている。メイ首相が進めようとする「ハードBrexit(欧州単一市場も含め、徹底的にEUから離脱する)」が実現したとき、イギリス社会は大きな衝撃を受けるはずだ。

そんな難しい時期の争点でもある国民保健サービス。予算不足に加え、多くの医療スタッフを外国人に頼るイギリスにとって、EU離脱に伴って起るであろう医療現場の人材不足をどう回避するのか、いまだ先が見えない。

私は「ゆりかごから墓場まで」と言われた時代のイギリスを知らない。でも無料医療は誰しも感じている不安に対し、大きな安心と希望をくれる制度だ。多くの人がこの制度の維持を望んでいる。

税金は高くなるかもしれない。でも無料医療制度を守ってほしい。世界的な高齢化社会への1つの例になってほしいと心から願っている。

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