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20184/10

【作るひと】アーティスト・前田邦子さん(ロンドン在住)by hanako

何もないところから何かを生む― 「作るひと」
日々何かを“作ること”を糧としている人たち。「作る」に至ったのはなぜなのか? 「作ろう」と突き動かされる気持ちはどこから来たのか? 「作るひと」が語る「作ること」について。

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「私にもできることが、きっとある」と思ってから、今までのこと
再生紙から作品を生み出す
ロンドン在住アーティスト 前田邦子さん

邦子さんの作品を初めて見たのは、Instagramにアップされていた写真だった。

ロンドンでインテリアデザイナーをしている方との打ち合わせの際、「知り合いの日本人女性アーティストが素晴らしい作品を作るんです。先日エキシビションに行ってきたんですが…」と言って、邦子さんのInstagramアカウントを見せてくれた。

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見たことのない形のうねり。作品の大きさ、そしてそれが何なのか(オブジェなのか、照明に使うシェードなのか、はたまたアクセサリーなのか)もよく分からなかったが、そのインパクトのある「形(かたち)」に打ちのめされ、

「この作品を見たい」
「実際に見てみたい!」
「早く見たい」

と強く思ったのを憶えている。

アート作品を見て、「色彩がすごい」とか「線がいい」と思うことはいままでにもあったけれど、写真を見て、そこに広がる「形」にノックアウトされたのは初めての経験だった。

邦子さんの彫刻作品は再生紙を利用して作られている。ブティックなどで買い物するともらえる 紙袋。この紙に昔ながらの防腐・防水剤である「柿渋」を塗布して強度を高め、レーザーカッターで切り込みを入れ作品に作りあげている。

2017年には次世代のクリエイターを支援する、国際デザインコンペティション「LEXUSデザイン・アワード」のファイナリスト(最終候補者)にも選ばれた。新進気鋭のアーティストとしてロンドンを拠点に活躍中だ。

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↑「LEXUSデザイン・アワード」の展示より

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↑建築家、伊藤豊雄氏と(「LEXUSデザイン・アワード」にて)

邦子さんの存在を知ってから数か月後、ロンドン中心部にあるベイカリー兼カフェで初対面した。作品から受けた強烈な印象とはまったく異なる、華奢で可憐な女性が現れたので少しびっくりした。

 

よく笑い、素直な反応を返してくれる。目の前のデニッシュをおいしそうにほおばる。人懐っこい話し方でテンポよく会話が続くので、初めて会ったというのに楽しく時間が過ぎ去った。

この可憐な女性が、あのパワフルな作品が生みだすのか…。

2度目に会ったときは、作品を抱えて会いにきてくれた。そして邦子さんのこれまでについてお話を伺った。

父の赴任先であるシンガポールで生まれた邦子さん。3歳の時に帰国し、兵庫県の小学校の入学するも、すぐにドイツ・ハンブルグに父の転勤が決まり転居。小学6年生の時に再び帰国。 日本国内で何度も引っ越し、何度も「転校生」を経験している。

「転入すると最初はチヤホヤされるのですが、いじめのターゲットにもなりました。ドイツから帰ってきたばかりのころは、日本での学校生活になじめず、辛かったです」

高校に進学すると「大学だけが道ではないのでは」と思い始めた。

「ずっと何かを作ることが好きでした。私にもできることが、きっとある。それを探したかったんです」

18歳の時、英語の専門学校に入学。サマーコースでイギリスに短期留学をする機会があり、その時の経験が現在のイギリス生活に繋がっている。

「当時は英語が話せず、周りと全くコミュニケーションが取れないことにショックを受けました。でもすごく個人主義で、自分の意見をハッキリ言うイギリスの気質、アートへの敷居が低い国であることには気づきました。イギリスには入場無料の美術館やギャラリーが本当にありますよね。ここでいつかアートの勉強をしてみたい、と思ったんです」

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決意を新たに帰国した邦子さんだが、その後すぐにイギリスに…とはならなかった。

「その辺が私のダメなところなんですよ(笑)。海外で学ぶ前に、自国の文化を知りたいと思ったので伝統工芸を学びました。20歳の時に京都にある伝統工芸専門学校に入学し、木彫刻を専攻しました」

仏具を彫る作業は好きだったものの、 22歳で卒業すると伝統工芸の道には進まず、 派遣社員として働きながらその傍らで自分の作品を製作。

「いつかイギリスへ、いつかロンドンへ、と思っていたのですが、勇気がなかったです」

結局ロンドンに来たのは29歳のときだった。

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1年の準備コース(ファンデーションコース)を経て、ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アートでテキスタイルを専攻。その後同大学院にも進学。大学院のコースがサステナビリティ(持続可能)デザインを学ぶコースだったことで、柿渋を使った彫刻作品が生み出された。

「ロンドンでリサイクルゴミの調査をしました。紙は身近な存在であり大量消費されるものですが、実はリサイクル紙は新しいパルプを入れないと質の良い再生紙にはならないんです。また、再生できる回数にも限りがあり、大量の水やエネルギーを使用することになります。だったら使えない紙をリサイクルではなく、さらに次元の高いものに作り替える『アップサイクル(Up cycle)』してみようか?と思ったんです」

最初は再生紙をそのまま使用して作品を製作していたが、紙の強度を高める方法を考え、柿渋に行きついた。

学校の推薦なども受け、アートフェアに出展すると作品が販売に繋がった。ロンドンだけでなくドイツやオランダの展示会にも出展するなど、活動の幅を広げている。

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↑フランクフルトでの展示。

昨年大学院を卒業。今後もアーティストとしてロンドンを拠点に活動していく予定だ。そこには「ヨーロッパで活動することに大きな可能性を感じる」という強い思いがあるという。

「今後、柿渋紙のマテリアルとしての可能性をさらにリサーチし、追及していきたいです。今のまま日本に帰るのは、中途半端な気がしています。まだこの地に発表の場があるのなら、もう少しここでやってみたいんです」

 ↑スタジオで作業中の邦子さん。明るい日差しが差し込む。

今後はアート作品としてだけではなく、商品への展開も念頭に作品を売り込んでいきたいと考えている。

「ランプシェードなどのインテリアにつかえるアイテムへの応用など、作品をもっと身近に使ってもらえるような方法も考えていきたいと思っています」

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 ↑邦子さんが製作したピアス

サステナビリティとアップサイクルから生まれた、邦子さん「だけが」作れるアートの形。彼女の作る柿渋アートの今後の展開に期待したい。

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前田邦子さんプロフィール:
シンガポール生まれ。2011年に渡英し、2012年からロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アートのテキスタイル学部で学ぶ。チェルシー・カレッジ・オブ・アートとミドルセックス大学で芸術学修士号取得。

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