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20189/23

【作るひと】現代イギリスを代表する陶芸家ジェニファー・リーさん  by hanako

何もないところから何かを生みだす― 「作るひと」
日々何かを“作ること”を糧としている人たち。「作る」に至ったのはなぜなのか? 「作ろう」と突き動かされる気持ちはどこから来たのか? 「作るひと」が語る「作ること」について。 (written by Hanako Miyata)

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「時間と共に色や形が変化する― その様子に心惹かれるんです」

現代イギリスを代表する陶芸家 ジェニファー・リーさん。

<Jennifer Lee ジェニファー・リー プロフィール>
陶芸家。1956年、イギリス・スコットランド アバディーンシャー生まれ。1975-79年エジンバラ・カレッジ・オブ・アートで陶芸とタペストリーを学び、1980-83年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)にて陶芸を専攻。カレッジ在学時代から個展を開催し、美術館に作品を購入されるなど頭角を現す。卒業後は欧州を中心に海外でも個展を開催。1994年、「ギャラリー小柳」(東京)にて日本で作品を初展示(グループ展)。2009年、「21_21 DESIGN SIGHT」(東京)での「U-TSU-WA」展にも招かれる。2015年には滋賀県甲賀市信楽に創作研修館にゲスト・アーティスト・イン・レジデンスとして招聘。2018年11月、「現代美術 艸居」(京都)にて個展を開催する。
web: http://www.jenniferlee.co.uk

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ジェニファーと私が初めて出会ったのは今年5月にロンドン・デザイン・ミュージアムで開催された「ロエベ・クラフト・プライズ 2018」の授賞式会場だった。「アルチザン(職人的芸術家)」に光を当てることを目的に2017年に創設されたこの賞。ジェニファーは本年度見事に大賞を受賞した

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Dame @helenmirren and #LOEWE Creative Director @jonathan.anderson with Jennifer Lee, the 2018 #LOEWEcraftprize winner. Lee was chosen as the winning entry from 30 finalists by a distinguished jury composed of leading figures from the worlds of design, architecture, journalism, criticism and museum curatorship. The winner was announced in a special ceremony today in London. The winning piece is featured in an exhibition at the @designmuseum opening tomorrow.

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↑授賞式にて。ロエベのクリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソン氏、そしてプレゼンターを務めた女優のヘレン・ミレンと一緒に。

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Here is some of the best work from last year´s #LOEWECraftPrize. Feeling inspired? The 2019 submissions are now open will be accepted until 31 October 2018. For more information visit loewecraftprize.com

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↑ジェニファーが製作した大賞受賞作品

授賞式当日、賞を発表するセレモニーの前に候補作を展示するエキシビションのプレス用内覧会があった。各国から集まったたくさんのプレスが写真を撮影したり、各候補者に話を聞いたりと会場は賑わっていた。

わずかな接着面であるものの、作品はずっと前からそこにあるかのような安定感で佇むジェニファーの器。さっと筆でなぞったようなかすれと斑点でできた帯は控えめだが絶妙のインパクトを与えている。作品を見て「温かな静寂」という言葉が浮かんだ。

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On display from 4 May – 17 June 2018 as part of the @Londoncraftweek programme, the #LOEWEcraftprize exhibition features all 30 finalists’ entries. Spanning ceramics, jewellery, textiles, woodwork, glass, metalwork, furniture, paper craft and lacquer, the works function as a multigenerational snapshot of the utmost excellence in craft today. #LOEWE #Craft #Design

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作品を見ていると、「日本の方ですか?」と華奢な女性が声を掛けきた。「私は何度も日本に行っています。日本は私にとってとても大切な国なんです」――そういって柔らかな微笑みをたたえながら日本語で「ジェニファー・リー」と書かれた名刺を手渡してくれた。

彼女の作品、そして彼女の陶芸家としてのキャリアについては以前から知っていた。彼女はイギリス現代陶芸界を代表する作家であり、イギリス陶芸を知る人なら彼女の名前を知らない人はいない。学生時代から陶芸家としての頭角を現し、ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム(ロンドン)やメトロポリタン・ミュージアム(NY)等世界有数のミュージアムに作品が所蔵。国内外に多数のコレクターを持つ。ある意味「重鎮」だ。

その本人から声を掛けられたことに驚くとともに、目の前で穏やかな微笑みではにかむように話しかけてくれた彼女に作品と同じように穏やかで、でも温かな印象を持った。そして「できれば彼女ともっと話がしたい。もっと作品を見たい」と強く思った。

そんな出会いから約3カ月たち、願いが叶う日が訪れた。彼女が「スタジオに来ませんか? 11月に京都で個展を行う作品を梱包・発送する前にお見せできますよ」とメールをくれたのだ。

こうして嬉しい再会が実現した。

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彼女はロンドンにある自宅の1階に制作スタジオを構えている。中に入ると、そこは彼女が制作するために必要なすべてがあった。

棚には作品が並び、作業台の下にはビニール袋に入ったたくさんのクレイ(陶芸用の土)。窯。そして彼女が「美しい」と感じて家に持ち帰ったさまざまなものたちがびっしりと、しかし彼女の流儀に従い「あるべき場所」に置かれている。

 

スタジオにあるひとつひとつの物に目を奪われていると、ジェニファーは温かなお茶をいれてくれた。そしてとてもくつろいだ雰囲気で、話始めた。

 

<金属酸化物が生み出す、淡い濃淡の帯と斑点>

アーティストの作品の特徴を一言で語るのは難しい。1つ1つに個性があり、異なるテクニックが使われているからだ。しかし敢えて言うならば、白い粘土を度ベースに、自ら開発した金属酸化物で色付けした粘土「カラークレイ」を使用することで色と模様をつけるのが彼女の手法だ。絵付けは行わず、釉薬も使わない。一部作品を除き、壺や椀型の作品はろくろを使わず手びねりで作られている。


↑Pale, flashing haloed granite olive bands, tilted shelf, 2018 ※  (Photo: JON STOKES)

そして独特の形も特長だ。僅かな接着面が絶妙のバランスで器を支え、そして淵の傾斜も彼女の作品を強く印象付けるものと言っていいだろう。


↑左:Speckled shale, olive base, haloed granite bands, tilted, 2018 ※、右:Pale shale, three peat ※  (Photo: JON STOKES)

まるで墨絵のように淡い濃淡のついた帯状の模様と斑点はカラークレイから生まれる。ホワイトクレイ(白い粘土)の土台の上にカラークレイを積み上げる、またはホワイトクレイで器の形を成形し、模様を入れたい部分に切り込みを入れてカラークレイを挟み込む。窯で焼くと、酸化物が化学反応を起こす。作品によっては2-3種類の酸化物を配合することで出したい色と斑点を作り上げるという。


↑作業台の下に収納されたカラークレイ。金属を混ぜ込み、寝かせている。時間が経つと色を変え、味わいが増すものも。中には30年物のカラークレイもある。

色が混じり合うグラデーション、そして一口に「斑点」と言っても様々なものがある。はっきりとした黒点もあれば、淡く浮かび上がるものもあるが、そうしたものはすべて偶然の産物なのだろうか?

「いえ、偶然ではないんです。作品を製作する前に『この部分にこういう色や斑点を出したい』と決まっているんです。色や斑点は化学反応の結果です。思った通りの表現にするために、先にカラークレイを少しだけ焼いて実験をします。そしてその結果を元に配合や配分を計算するんです。なので大体の完成型は予想できるのですが、とは言っても『どこにどのぐらいの大きさの斑点が浮き出るか』までは分からないんです」


↑スケッチブックに製作メモを書き、記録している。

「例えると、スープにブラックペッパーをかけるようなものかしら。黒い粒がワーッと表面にふりかかることは分かるけれど、どこにコショウの粒が落下するかは分からないでしょ。でもすべてが分かってしまったら、面白くない(笑)。分からない部分の面白さも楽しんで製作しています」


↑作業台の下にたくさんある「実験結果」の陶器の破片。ナンバーやメモ書きが張られ、酸化物の配合と結果が分かるようになっている。

 

<見たもの、旅をした場所、置かれた環境ー すべてが創作の源>

改めてスタジオを見回すと、木や葉、動物の骨といった「自然」を彷彿させるものが多いことが分かる。彼女の作品ににじむ色合いや質感にどこか共通するものを感じ、「あなたのインスピレーションの源は『自然』なのですか?」と尋ねると、「そうではないの」と即答だった。

「このスタジオに来た人たちがそう感じるのを、もちろん理解できます。ここには自然のものが多いですからね。もう1つ、作品に描かれる模様の形から『風景を描きたいの?』ともよく聞かれます。でもどちらも違うんです。私が表現したいものはもっと抽象的なもの。器の形、色、そして淵の傾斜まで思い浮かべた上で製作を始めますが、作りたいのは頭の中に浮かんでいるイメージであり、『自然』や『風景』ではないんです」


↑作業台の風景。植物のドライ、使い込んだ道具、日本で買い求めた赤い小箪笥等、彼女の審美眼が選び、ここに集められた。右手の棚にはさまざまな酸化物が収納されている。

作業台の前の掛けられている乾燥した蓮の葉は日本(上野)で見つけたもの。長年使っている手になじんだ古いヘラも日本で見つけ、鳥の骨はカリフォルニアのソルトン湖でひろった。手で触ってその美しいカーブと滑らかな感触を愛おしそうに味わう。


↑左:Banded olive, peat, sand, haloes, flashing, 2017 右:Banded olive, peat, sand, haloes, flashing, 2017 ※ (Photo: JON STOKES) 作業台の何気ないディスプレーと作品が、素晴らしいコラボをしている。

「年輪や時間の経過を感じさせる色や物に魅かれるというのは確かです。時間と共に色や形を変えてきたものの美しさに特に惹かれます。でもそれだけではありません。これまでに行ったアメリカ、エジプト、インド、日本等、様々な国で見て感動したもの、目に焼き付いた風景、好きなものに囲まれたこのスタジオ、そういった私の感性と感受性に響くものがインスピレーションとなっています。そして素材(クレイや酸化物)からもアイデアをもらいます。すべて合わさり、作品が頭に浮かぶのです。創造の源は1つではありません」


↑Graphite stone, olive flashed trace 2016 ※ (Photo: JON STOKES)

そして頭に浮かんだオブジェクトを実際に陶芸という手法で形にすることは、彼女にとって「必然」なのだと、熱っぽく続けた。

「作りたいから、作らなくてはならないと感じるから作っています。『製作しない』ことの方が私にとって不自然なんです。新しい素材に触れること、実験することを心から愛し、粘土と酸化物が見せてくれる結果にワクワクします。製作しない人生は考えられない…そう思っています」

 

<信楽での日々で気づいたこと>

1994年「ギャラリー小柳」で日本での初展示となったグループ展が開かれたとき、初めて日本を訪れた。その時の衝撃は今も鮮明だ。

「まったく別の国に来たと感じました。日本語もできず、本当に右も左も分からなくて。見るものすべてが新しかったです」


↑Dark olive, peat band, umber-peat haloed trace 2018 ※ (Photo: JON STOKES)

この個展をきっかけに、栃木県立美術館に作品が購入・所蔵されることとなった。そして2009年、三宅一生氏のデレクションによる「U-TSU-WA展」(ルーシー・リー、アーネスト・ガンベールとの3人展)が「21_21 DESIGN SIGHT」で開催。日本でのネットワークを次第に広げていく。2015年、信楽(滋賀県)にある陶芸の森アーティスト・イン・レジデンスのゲストアーティストとして招聘され、日本に滞在。この信楽での滞在は、彼女に大きな影響を与えたという。

「日本に滞在したことは、本当に意味深いことでした。何より、今まで使ったことのない赤土を知ったからです。締め切りを考えずに実験や製作ができる環境と時間は本当に贅沢なものでした。ただ作品に集中し、日本人の陶芸に対する感性に触れた日々。『時間』に対する考え方が、日本滞在で変わったんです。これは日本が私にくれたプレゼントです。信楽の職人技に感銘を受け、共に働くことも楽しみました」

↑信楽の赤土で製作した作品。左:Shigaraki Red, dark metallic, spangled red, tilted, 2014  右:Shigaraki Red, dark metallic, red tilted shelf, 2014  (Photo: JON STOKES)

 

<スローペースで作り続ける>

これからのことを聞いてみると、一呼吸置いた後こう語った。

「私はラディカルな変化を求めていないんです。信楽で贅沢な時間を過ごしたことで、私の働き方に対する考えが変わりました。今後もじっくり時間をかけ、スローペースで作品を作っていきたいと思っています」

とはいえ、彼女のスケジュールは来年まですでに決まっている。まず11月3日~12月8日に「現代美術 艸居」で開催される個展のため、11月には日本に向かう。そして来年にはイギリス・ケンブリッジ大学内のアート・ギャラリ「Kettle’s Yard」での個展も決定している。


↑京都での個展で販売するぐい呑/湯呑。この日窯だししたばかり。作品はまだほのかに温かかった。

↑左:Shigaraki 34, 2014 ※、中:Shigaraki 32, 2014 ※、右:Shigaraki 35, 2014 ※  (Photo: JON STOKES) ジェニファーの作品としては珍しい、ろくろを使った作品(ぐい呑/湯呑)。

彼女が個展を開催することを大切にしているのは、「人々に作品を見てほしい」という強い思いがあるからだ。

「日本での個展を本当に楽しみにしています。『艸居』は素晴らしいギャラリーです。多くの人が来てくださって作品を見てくださり、見た方の心に何か響いてほしいと思っています。人の人生はそれぞれ異なるように、私の作品を見て思うことは人それぞれ異なるでしょう。人生、考え、思い出を重ね合わせるかもしれません。私の作品が人々に何か語り掛けるものであってほしいと願っています」

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終始笑みを絶やさず、穏やかで謙虚な語り口だったジェニファー。しかし研ぎ澄まされた感性で物事を見つめ、彼女ならではの世界観を作り上げる姿勢はしなやかでありつつも鋭く、ぶれることは決してない。

彼女のその静かでまっすぐな強さから、「温かな静寂」が生まれているのだと感じた。

 

–*–*–

『ジェニファー・リー展』 2018年11月3日(土)〜12月8日(土)
<現代美術 艸居>
〒605-0089 京都市東山区古門前通大和大路東入ル元町381-2
web:  http://www.gallery-sokyo.jp
手びねりの器(10作品)、平版(1作品)、ろくろを使って作られたぐい呑/湯呑(10作品)、絵(4-5作品)を展示する。本文内で使われた作品写真の内、「※」印がついているものはこの個展で展示予定のもの。
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