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【映画のはなし】古本の匂いが映像から漂う『チャーリング・クロス街84番地』(1986年):ネタバレなし
映画レビューです。最近、20年以上前に公開された「ちょっと古め映画」の掘り起こしをしています。
4.5 out of 5.0 stars最近、ちょっと古め映画の掘り起こしをしている。若い人が読む媒体に映画記事を書くことがあるが、最近の傾向として「古め映画も好んで見る」若者が多い様子。これは私には好都合だ。
書店について調べているときにこの作品のことを思い出し、再視聴した。本への愛情が詰まりまくった、本好きならきっと誰でも「大好き!」と叫びたくなるような作品だ。
あらすじ:
第二次世界大戦が終わったばかりの1949年。NY在住の作家ヘレーン・ハンフ(アン・バンクロフト)は、NYで英国文学や好みの古書が手に入らないことを嘆いていた。しかしあるとき新聞広告で観たロンドンの古書店に稀覯本を「だめもと」で注文する。すると注文通りの本が、ベテラン店員ヘンリー・ドエル(アンソニー・ホプキンス)の丁寧な手紙と共に届き、ヘレーンは大喜び。以来20年以上に渡りヘレーンとヘンリーのやりとりが始まるが、次第に書店員を巻き込んだ暖かな交流に繋がっていく。
タイトルの「チャリングクロス街」とは、ロンドンの中心にある「チャリングクロス・ロード」という一本道のこと。古くから書店街として知られ、特に古書店が多いストリートである。ここ10年で特に古書店の数が減ってしまったが、この道にある新刊書店「Foyles」が新装開店して立派になったこともあり、「本屋さんのあるストリート」の名をキープし続けている。
コロナ以前、私もこの道をフラフラするのが大好きだった。古書店をちょっと覗いて、その後「Foyles」(↓)で立ち読みし、最後に買った本を「Foyles」のカフェ広げるのが楽しみだった。
この映画は、本好きにはたまらん作品だ。メインキャラクターの2人の本愛が溢れまくり、かつロンドンの古書店「マークス商会」の古書の匂いが映画から漂ってくる。
話自体はとてもシンプル。本の注文という「書簡」を通した友情(+友情をやや超えたプラトニック恋愛)の物語。そこに「戦後すぐ」という時代背景がエッセンスになっている。実在の作家であるヘレーン・ハンフが自身の体験をもとに書いた小説を映像化した作品だ。
私はこの作品を見るまで、戦後数年たってもイギリスの食糧事情が悪く、配給制だったことを知らなかった。片やアメリカはスーパーに行けば何でも買える。同じ戦勝国でもこんなに違う戦後を歩んだのだなあ…と、本筋とはやや逸脱した発見もあった。
またイギリスのライフスタイルが描かれているのも興味深い。ヘンリーがせっせとDIYをしたり、会社で淹れる紅茶の美味しそうな様子、人が集まるときにヘンリーの妻(なんとジュディ・デンチ。この名女優さまが脇役って、驚く…)が作るサンドイッチは、切り方も見た目もまさに「イギリス」。私にとってはロンドンに住みながら知ったことの「答え合わせ」をしているようだった。
↓この映画に登場する「乾燥卵(乾燥全卵)」。初めて知りました…。
またロンドンの街並みがあまり変わっていないことにも驚いた。1986年の作品だが、1946年~約20年という設定。田舎の町や室内の風景は、今とほぼ変わらない。なので、この映画を見た方が「昔のイギリス」としてみると、ちょっと違う。バスや車、電気製品のモデルは変わったが、街並みは今も映画と同じ感じの佇まいのままだ。
アン・バンクロフト演じるヘレーンの言葉からあふれる「本愛」と、ページをめくるときにニンマリ微笑む笑顔が良い。その場で一緒に読んでいるような気分になる。この映画を見ると、本を読みたくなるし、本屋に行きたくなるし、ついでに手紙も書きたくなる。
日本では劇場公開されなかったようだが、ビデオ販売はされており、配信でも視聴可能。
再視聴した後は、原作も読みたくなった。
日本語タイトルは『チャリング・クロス街84番地―書物を愛する人のための本』(中公文庫)。下記↓は表紙が素敵な英語版。
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