© matka All rights reserved.

トマス・ピンチョン

20204/18

【朝のコーヒー、午後のお茶】「競売ナンバー49の叫び」を再読

私は漫画は何度も読み直すことがあっても、本を再読することはほぼないです。なのですが、たまに、簡単に読み解くことができない本は時間を置いて再びページを開くことがあります。

現代のアメリカ文学を代表する小説家のひとりである、トマス・ピンチョン の全小説が何冊かづつ発売されはじめた当時(2010年)、私は1作品も読んだことがなかったので、文庫本ですでに発売されていた「 競売ナンバー49の叫び 」を手にとってみました。そして、「う〜ん」となってしまったのです。文体や話の流れは好きなのですが、何を暗示しているのか後ろの本編の1/4はあろうかという「解注」を読みながらの読書はスムーズにはいかず、ようやく読み終えたのでした。

先日、時が経って読み直したときに、「探偵小説」の楽しみと、1964年当時のアメリカの状況にも触れる面白さがありました。この時期、コーヒーと共にゆっくり読み解きながらの読書はいかがでしょうか。と以下は簡単なまとめと感想です。

「競売ナンバー49の叫び」 トマス・ピンチョン
ちくま文庫 1966年 900円

次々と現れる情報と共に、謎解きの旅へ

天才の脳内を凡人が旅することができるとすれば、それは本が一番の媒体だろうと思う。難解な作品で知られるトマス・ピンチョン(アメリカ、1937~)の入門作といわれる、作者が28才の時に書かれた中編小説。これが入門だとしたら、他の作品は一体どうなっているのか…。とはいえ、難解が難解を背負っているような作品でないことは確か。主人公の主婦エディパ(容姿についての記述はないが、おそらくかなりの美女)が死んだ元恋人の大富豪によって「遺産管理執行人」に指名されていたことから、謎に包まれた組織の解明に乗り出す。というストーリー。

謎めいた人々や、演劇、ラッパのマークなどに接するうちに、エディパは混乱していく。この示唆や暗号溢れた文字群を、完璧に理解することは難しいけれど、そもそも、情報エントロピーの増大によって(エントロピーについては小説内でも記載されている)無秩序になっていくことが、この小説の軸と考えると、次々に現れる(時にユーモアのある)断片的な情報(シーン)に身を委ねることができる。表現方法がユニークで、言葉の連続性も面白い。そうして読み進めると、時々ハッとするように、情報社会の現実とつながったりもする。「解注」を見つつ、謎解き読書の旅をどうぞ。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

podcast196

【podcast196】映画『BLUE GIANT』とNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』から感じた夢と目標の置き場所

人生も長くなり、状況もどんそん変わっていく世の中で「夢」も変化していっているのかなと思います。最近のエンタメでも「夢」は持ちつつ、実際の「目標」をどこに置くのか。というリアルな課題が登場人物に課されることが多いなあと思います。そのことを考えるきっかけになった2つの作品を紹介しながら、あれこれ話してみました。

20233/14

【わたしの家の話】築120年の「普通の家」に引っ越して半年。

2022年8月にロンドン内で住み替えしました。築120年超の古民家暮らしの厳しい現実を綴ります。 今「タグ」を確認したら、「わたしの…

【Podcast195】故ジャニー喜多川氏の「ある疑惑」に迫るBBCドキュメンタリー

日本でも一部の人たちには話題ですが、3月7日(イギリス時間)に故ジャニー喜多川氏による性加害について取材したBBCドキュメンタリーが放送されました。タイトルは「プレデター:J-popの秘密のスキャンダル(原題訳)」。なかなかショッキングなタイトルです。

podcast194

【podcast194】私たちの好きなナレーター、ナレーション

以前から自分の声や話方にコンプレックスのあるワタクシ、いい声や話し方に対して憧れが強く、普段テレビ番組やラジオを聴いていてナレーションを気に掛けることが多いです。一方、ドキュメンタリーを数多く視聴するフローレンスさんもナレーションの重要さを実感していて、2人で好きなナレーターについてあれこれ話してみました。

【podcast193】イギリス現況:野菜がスーパーから消えている…

イギリスで先日「スーパーで野菜と果物が品不足…」というニュースが報道されました。これには理由があるのですが…について話しました。

ページ上部へ戻る