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20209/17

【映画のはなし】2つの終戦記念日、そしてバス停でおじいさんに言われたこと。映画『レイルウェイ 運命の旅路』

4.0 out of 5.0 stars

TOP画像:BBC iplayerのキャプチャー画面 Copyright © 2020 BBC

コロナ禍になって以来映画館に1度もいっていないが、「見るのにちょっと勢いが必要な映画」の場合、以前は配信を待たずに映画館に行ってみていた。

「見るのに勢いが必要」な映画は2種類あり、1つはアート系映画。見ておきたいけれど自宅で見るには集中力が保てなさそうな意識高い系映画。もう1つは残酷なシーン(戦闘、殺戮、拷問など)が登場する、主に戦争・迫害・差別などの映画。

『レイルウェイ 運命の旅路』(2013年)、は後者の「拷問シーンがある映画」の中では、正面を見れないシーンが少なそうな映画では…ある(とトレーラーからは予想された)。それでも見るのを躊躇していた。しかし最近BBC iPlayer(BBCの配信サービス)での配信期限があと数日で終了するのを知ったので、重い腰をあげて見ることにした。

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あらすじ:
原作は、エリック・ローマクスの自叙『泰緬鉄道 癒される時を求めて』(The Railway Man)。実話を元に映画化したもの。

1980年、イギリス。退役軍人のエリック(コリン・ファ―ス)は、電車の中でパトリシア(ニコール・キッドマン)と出会い、結婚。しかしほどなくして、パトリシアはエリックが何かに怯え、日々うなされていることに気づく。

エリックは第二次世界大戦中の1945年2月、シンガポールで捕虜となった過去がある。タイとビルマ間を繋ぐ泰緬鉄道の建設に従事させられたが、日本軍からされた“恐ろしい体験”の記憶から逃れられないでいたのだ。あるときエリックは、軍友のフィンレイ(ステラン・スカルスガルド)から、日本軍の通訳だったナガセ(真田広之)がまだ生きていることを聞く。ナガセこそが、戦後何十年たってもエリックを苦しめている張本人だった。エリックは日本軍から何をされたのか…?

エリックはある事件をきっかけに、長年苦しみつづけた過去と向き合う決意をする。

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イギリスと日本は、先の大戦で敵国だ。この点について友人との会話で話題にすることはあるが、友人であればそれほど挑戦的なことを私に言ってきたりはしない。

しかし私はイギリスに来て以来、計2回、ダイレクトにこの点を突かれたことがある。

1回は、家の近所のバス停で。バスを待っていると、初老の男性がこちらに向かって歩いてきた。そして突然「オレは絶対寿司を食べない。なぜなら、日本軍に苦しめられたからだ」と小さな声だがやや強い口調で私に言い、それだけ言って去っていった。

もう1回はベネチア映画祭に行ったとき。夜、プレス仲間たちと飲んでいたのだが、同じテーブルにいたオランダ人ジャーナリストに「僕の祖父は日本の捕虜だった。散々な目にあったとずっと言っているよ」と言われた。

どちらも私に答えを求めるものではなかったので、ただ聞いただけだ。でも何年たってもずっと忘れることはない。

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第二次世界大戦においての日本の終戦記念日は8月15日だが、イギリスには2つの終戦記念日がある。

1つは5月8日。1945年のこの日はドイツが降伏した日であり、「Victory in Europe Day(ヨーロッパ戦勝記念日)」を略して「VE Day」と呼ばれる。厳密にヨーロッパで完全に戦闘が終結したのは、プラハの戦いが終結した5月11日だが、イギリスではこの日をヨーロッパ戦線の終結日としている。

もう1つは「Victory over Japan Day(対日戦勝記念日)」を略して「VJ Day」と呼ばれる8月15日。1945年のこの日を連合国の対日本戦の戦勝記念日としている。

VE DayもVJ Dayも朝のニュースから1日中、戦争についての特集が組まれる。そして「平和のために戦った勇敢な兵士」を讃えている。

ちなみに第一次世界大戦の終戦は1918年11月11日。この日をイギリスでは「Remembrance Day(記念日、追悼の日)」と呼んでいる。イギリスでは毎年11月に退役軍人・戦没者福祉団体への募金が行われ、募金をするとケシの花の造花「リメンブランス・ポピー」がもらえる。この時期、皆ポピーを胸につけている。(日本の赤い羽根募金の時期と同じ光景)。

VE DayもVJ Dayも毎年巡ってくるたびに私は複雑な心境で過ごしているが、特にVE Dayは毎年ストリートパーティが行われるので、派手な分、さらに心が重い。家の前の道にテーブルを出して、ご近所さんと道でパーティーをするのが習わしだ。

たまに驚くのは、日本人でもこのストリートパーティに参加している人がいることである。戦後70年以上たち、現在このパーティーに「戦争を思い出す」という意味合いは薄れてはきている。なので単なるご近所同士の楽しいパーティーなのだが、私は参加する気には到底なれない。

↑今年のVE Dayのストリートパーティは、ソーシャルディスタンスを守り、家の前にテーブルを置き、各世帯が離れたまま、道を挟んでパーティーをする人が多かったです。

それにはいくつか理由があるが、1番大きな理由は毎年VE DayおよびVJ Day(そして日本の終戦記念日)に感じる大きな違和感である。

イギリスでは戦勝記念日という喜ばしい日であるとともに、兵士を讃える日だ。終戦記念日前後の日曜日、教会に行くと、かならず礼拝では「平和のために戦ってくれた兵士に感謝する」祈りが捧げられる。

この祈りを聞くたびに、毎回繰り返し思う。

そもそも平和のための戦争なんて…あるのだろうか?

戦争とは人が人を殺し合う殺人である。

戦争している時点で平和ではないのだから、平和のための戦争なんて、矛盾している。

「兵士に“ありがとう”」…どうも腑に落ちない。

招集され、戦地に向かった人たちは家族のため、愛する人のため、戦うことが使命だと思い、戦ったのは確か。これはイギリスだって日本だって、ドイツだって同じだ。

戦争を決めたのはいつだって国の上層部のお偉い人達だ。「ありがとう」よりも、「戦争なんてしてしまって『ごめんなさい』」「戦争を防げなくって『ごめんなさい』」「尊い命を失わせてしまって『ごめんなさい』」と、国は兵士や国民に謝るべきだと思うのだ。

毎年のことだが、戦没者記念式典、広島・長崎の式典の安倍首相(当時)の挨拶にも、毎回違和感を感じていた。

2020年の全国戦没者追悼式総理大臣式辞より抜粋:
「今日、私たちが享受している平和と繁栄は、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものであることを、終戦から75年を迎えた今も、私たちは決して忘れません。改めて、衷心より、敬意と感謝の念を捧(ささ)げます。」(全文はこちらから)

戦没者の尊い犠牲がないと、繁栄がなかった?のような言いっぷりだが、犠牲がなくても繁栄はできたはずだ。犠牲を出したのは国のせいなのに、感謝の念?「死んでくれてありがとう」と言っているの? 死なせてしまってごめんなさいなんじゃないの?…そんなモヤモヤがに毎年煮えたぎっている。

新首相の来年の発言、注目したい。

日本は敗戦国だから、同じ戦争だけれど「平和のために戦った」という言い方はしない。でもイギリスは戦勝国だから「平和のために戦った。そして勝った」となる。このことにもモヤモヤする。

同じ戦争なのに。同じ殺し合いなのに、立場が違うとこんなにも違う。

そんな答えの出ないことをグルグル毎年考えている。

===

直接この映画と関係ないことを長々書いたが、戦争にまつわることを考える時、毎回このモヤモヤに行き当たる。

しかし日本軍が行った捕虜および日本軍兵にに対する残虐行為については、もう少し違う感覚だ。映画で見ても、本で読んでも、モヤモヤではなくハッキリとした恐怖として記憶され、戦争体験がない私でも夢に出てうなされてしまったこともある。

↑あまりに辛い内容だが、見てよかった番組。

人間はこんなにも残酷になれるのか? ナチスが行ったこと、日本軍が行ったことを具体的に描いた映画やドキュメンタリー、書籍は多いが、震える思いでそういったものに触れている。

この映画『レイルウェイ 運命の旅路』も、日本軍が行った残忍残虐な体験が中核となっている。

西洋側から日本軍を描いた作品だが、日本人を演じた俳優の演技にあまり違和感を感じなかった。しかし事実は「こんなもんじゃない」「もっとひどかった」のだと思う。残酷シーンはあるものの、その辺は少しソフトに描いているような気もする。

後半の真田広之登場以降のシーンは、何だか話がトントンと行き過ぎて、ちょっと物足りなかった。そこを除けば、辛かったけれど見てよかった作品だった。

↑“ナガセ”こと永瀬隆さんの戦後を描いたドキュメンタリー『クワイ河に虹をかけた男』もいつかチャンスがあれば見てみたい。

つらいけど、見た方が良い映画・映像、読んだ方が良い本はたくさんある。別に誰に頼まれたわけじゃないけれど、世の中が平和であってほしいので、できるだけたくさん見ないと&読まないと。

でも、辛いけどね。

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