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『狐狼の血 Level2』

20219/13

東映映画『狐狼の血』『狐狼の血 Level2』一気見感想(ネタバレなし)

「カチコミじゃー!」怒号が飛び交うヤクザ映画。「カチコミ」とはヤクザが敵対組織に襲撃することであるが、単にスクリーン内のことではない。『狐狼の血』『狐狼の血 Level2』の映画(の制作)自体がすっかり「牙」を抜かれた日本映画界への「カチコミ」なのである。東映は戦後、高倉健や菅原文太などのスターで任侠映画を制作して人気を得てきた。その中でも「仁義なき戦い」シリーズは言わずと知れた人気作であるが、『狐狼の血』『狐狼の血 Level2』はその『仁義なき戦い』シリーズへのオマージュを存分に感じられる新たなエンターテイメント作品だ。

白石和彌監督は、『凶悪』(13)、『日本で一番悪い奴ら』(16)など話題作を次々と制作できる日本では数少ない監督だ。私も監督の「映画らしい映画(映画にしかできない表現)」が好きで、いつも作品を楽しみにしている一人だ。白石監督は若松孝二監督に師事していたこともあり、昭和の映画の熱量や泥臭さを引き継ぎながら、現代の観客へ新しい「驚愕」をもたらしてくれている。

『狐狼の血』

とおすすめする内容を書きつつも、白石監督の作品は万人におすすめできない点もあり…、それは過激なバイオレンス表現が含まれることである。『狐狼の血』は残念ながら劇場での鑑賞を見逃してしまい配信で開始早々視聴することにしたのだが、冒頭で「あ、うん。またの機会にしようかな」と視聴を止めてしまった(配信のいいところでもあり、悪いところでもあり…)。それは私の苦手な「痛そう」と「汚い」の両方のシーンが初っ端にあったため。私はバイオレンス表現でもスプラッター系は大丈夫なのだが、刃物痛そう系がめっぽう苦手だ(映画『死霊のはらわた』は大丈夫だけど『アンダルシアの犬』の冒頭はダメと言えばお分かりいただけるだろうか)。そうこうするうちに『狐狼の血 Level2』の劇場公開が始まるので、ここは「えい!」と『狐狼の血』再視聴を決めた。前述の苦手な冒頭シーンも日曜の昼に観たこともあって無事通過し、あとは作品世界にズブズブと浸るだけ。

『狐狼の血』は柚月裕子原作の小説を映画化、役所広司を主演に松坂桃李、真木よう子、石橋蓮司、江口洋介ら豪華俳優陣が出演している。

昭和63年、広島の呉原では暴力団組織が街を牛耳り、新勢力である広島の巨大組織五十子会系「加古村組」と地元の「尾谷組」がにらみ合っていた。ある日、加古村組の関連企業の社員が行方不明になる。ベテラン刑事の刑事二課主任・大上章吾(役所広司)巡査部長は、そこに殺人事件の匂いをかぎ取り、新米の日岡秀一(松坂桃李)巡査と共に捜査に乗り出す。

シネマトゥデイ https://www.cinematoday.jp/movie/T0022595

この映画は“眉間に筋の入った暴力的なアウトロー。でも天使”な役所広司を味わい尽くす映画だと思う。役所広司の演技の素晴らしさについて異論を挟む人はいないだろうが、ここまで暴力的でキリキリする凄みのある役は彼にとっては珍しいのではないだろうか(『シャブ極道』(96)以外)。大上(役所)は「ヤクザ」だけでなく「警察組織」とも戦う中で、もがきながら、でも自分にできることはそれしかないというあっけらかんとした前向きさ、そして手段を選ばないしたたかさと暴力性。カリスマ的大上の存在を鮮明に浮かび上がらせられるのは役所広司以外考えられない。

さらにこの映画の「魅力」はなんと言ってもオール広島県呉市ロケ。レトロな街が存分に活かされており、細やかな小道具も相まって映画の設定の昭和63年へ自然と誘われる(呉観光協会ロケ地マップ)。そしておなじみ「東映ロゴ」の背景に波ザッパーンのオープニングからの『仁義なき戦い』と同じ実録調ナレーションにもフフッとなる。フフッとさせられるといえば、私はヤクザ映画によくある敵対する者同士が顔をギリギリまで近づけて「なんだこらー!」「おらー!」と怒鳴り合うシーンが何故か面白くなってきてツボなのだ。豪華役者陣も普段の役では演じることのない怒声飛び交うシーンを、この映画では意気揚々と演じている。

孤軍奮闘する大上(役所)と若い正義感の新米巡査日岡(松坂)の気持ちが錯綜しながら、抗争までのタイムリミットのスリリングさと、大上の明かされる過去の真実と、裏をつく作戦によって興奮のままラストへ突き進んでいく。

『狐狼の血 Level2』

視聴後の満足感と『狐狼の血』の世界観に浸りながら、早速次作『狐狼の血 Level2』のチケット予約をして映画館へ。場所柄お客さんが少ないかと思われた二子玉川109シネマズだが、作品人気と公開3日目とあって、満席に近い状態だった。

『狐狼の血』撮影後すでに続編の制作が発表されていた今作。原作を離れオリジナルストーリーで展開する。実際の年月と劇中の年月が同じ3年経過後ということも、この映画を面白くさせているポイントだろう。なぜなら、役所広司のあとを継ぐ形で主演となった松坂桃李はこの3年あらゆる役を乗り越え、映画『新聞記者』では最優秀主演男優賞に輝いた。役所のあとを継ぐ主演という立場と劇中での大上刑事のあとを継ぐことは同じように多大なプレッシャーがあり、現実とのリンクが松坂の演技に多分に現れているように思う。

そんな松坂を盛り上げるのは、ずらりと並ぶ最高のキャスト陣。全員いい!全員いいのだが、その中でもまずは、日岡(松坂)と新たにコンビを組む定年間近の刑事瀬島こと中村梅雀。この緊迫感あふれる映画の中で、観客は中村梅雀だけが劇中の日岡同様に思わずホッと心を許してしてしまう存在なのだ。その雰囲気は中村梅雀にしか出せないもので、視聴後にはさらに唸ってしまうキャスティングの妙なのだ。そして、なんと言っても今回は敵対するヤクザ上林こと鈴木亮平。私的に「魅力的な悪役が出るエンタメにハズレなし」を実証してくれる、素晴らしい悪役ぶり!非情な殺人鬼といえばそうなのだけれど、そこはかとなくロマンチシズムを感じる難しい役、醸し出すオーラからして鈴木亮平は上林になっていたと思う。 鈴木は「その時コロナ禍で残った仕事がこの上林役だけだった」とインタビューで語っていたが、この役に集中できたことも功を奏したのだろう。余談だが、鈴木亮平はアメリカに行っても成功するのでは。とこの映画を観て思った(英語力はもちろん、体格の良さや役作りへの打ち込みかたなどなど)。

中盤に落ち着いたシーンのある1作目とは違い、『狐狼の血 Level2』はストーリーがクライマックスに向けてアクセルをどんどん踏んでいく展開だ。日岡(松坂)と上林(鈴木)の印象深い出会いのシーンから、それぞれに目が離せないシーンが続いていき、いよいよ2人の対決がクライマックスに差し掛かった時、上林(鈴木)がニヤリと笑う。その瞬間観ているこちらもマスクの中でニヤリとしてしまう!なぜかって、これからとんでもなくボルテージの上がる戦いが始まるに違いないから!「どんな戦いを見せてくれるんだろう」という期待でワクワク感が止まらなくなる。そして想像以上に苛烈熱烈長尺バトル!撮影も3日がかりだったとのこと。

こんな日本映画最近あっただろうか。当然地上波では放送できないバイオレンスの恐怖と、何が起こるか先の読めない展開、何をしだすかわからない最強最悪の悪役、なかなか死なない凄惨なバトル。コロナ禍で鬱々とした感情を吹き飛ばしスッキリさせるような映画。上林(鈴木)が劇中で叫ぶ「だいぎんじゃー!!」は広島弁の「疲れる」「面倒なことだなあ」という意味だそうだが、まさしく今の世の状態に放たれた言葉のようでもある。白石監督の日本映画界への「カチコミ」はまだまだ続く。きっと『狐狼の血 Level3』も制作されることだろう(期待もこめて)。次回はあの武闘派ヤクザが出所して、新たなインテリヤクザとの三つ巴かな。なんて。

TOPのポストカードは劇場特典でいただいたもの。鈴木亮平さんの描いた日岡(松坂)。鈴木亮平さん絵も達者!

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観たいけど怖いなあ。と思った方へ。東映がyoutubeで『狐狼の血 Level2』宣伝番組動画をアップしているので、この動画を観るといささか恐怖心が薄らぐかもしれません。とても面白いです。

監督曰く「ヤンチャな映画なのに」呉市の方たちが全面的に応援しているの、ほっこりします。
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