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【ドキュメンタリー】後継者は誰? BBC『The Rise of the Murdoch Dynasty(マードック王朝の台頭)』
ドキュメンタリー作品が大好きです。ものすごい本数見ているので、「ドキュメンタリー愛好家」を名乗ることにしました。これまでに見て心に残ったドキュメンタリー作品を紹介・記録するアーカイブ。素晴らしすぎて書かずにいられない作品を書き留めます。日本とイギリスの作品が多いですが、国を問わずどん欲に見ています。
※ネタバレしています。現在日本でこの番組は配信されていませんが、見る機会がある方はご注意ください。
先日コスモポリタン日本版に映画の記事を書いた。
人間関係超ドロドロの海外ドラマを集めた記事だが、その中の1作に『キング・オブ・メディア』を選んだ。
アメリカのメディア王とその後継者争いを描いた本気のドロドロドラマだが(大変面白い)、主人公ロイ・ローガンのモデルは、現代に生きるメディア王、ルパート・マードックと言われている。
原稿を書くためにドラマを見直している途中、BBCでマードックについてのドキュメンタリー番組(全3話)『The Rise of the Murdoch Dynasty(マードック王朝の台頭)』を配信していることを知り視聴した。
ドラマも凄いけれど、現実もスゴイ。
そして怖い。
ルパート・マードックとは?
1931年オーストラリア・メルボルン生まれ(89歳)、オーストラリア系アメリカ人。父が残した新聞社を引き継ぎ、1台で世界のメディア王にのし上がった人物。現在マードック・メディア帝国の出版部門を束ねるNews Corporationの代表取締役会長(Executive Chairman)、そして映像部門を束ねるFox Corporationの会長(Chairman)務めている。
現在までで4度結婚しており、子供は6人。現在の妻はジェリー・ホール(ミック・ジャガーの元妻)。
このドキュメンタリーには2本の軸がある。
①ルパートの後継者は誰なのか?
②ルパート&マードック帝国のこれまでの歩み。
番組は時系列で②を説明しつつ、その時々にもっとも後継者に近かった人物の動きを追っている。そして番組の最後に、たぶん決定したであろう後継者が誰なのか?を明示している。
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ルパートの後継者候補として登場するのは下記3人。全員が2番目の妻であるアナ・トーブの子どもである。(なぜか最初の結婚で生まれた娘プルーデンスは候補に入っていない)
長女エリザベス・マードック(1968年生まれ)
長男ラクラン・マードック(1971年生まれ)
次男ジェームス・マードック(1972年生まれ)
競走馬はこの3人。さて、誰が父の帝国を引き継ぐ?視聴者は予想しながら見進める。
90年代、3人は父の会社に出入りしながらキャリアを積んでいく。最初に頭角を現したのは長女エリザベスだが、夫の影響もありファミリービジネスから距離を置ようになる。次に頭角を現したのは長男ラクラン。しかし彼も父と距離を置く。そして次なるトップ走者は次男ジェームス。父の寵愛と後継者の椅子への最至近距離は順番に回ってくるので、これがドキュメンタリーなのだがドラマのような面白さがある。
この番組を見ていると、父ルパートはメディア王というより、政治家であることが分かる。選挙に出ていないが、政治を味方にし、
●陰で国と世界を動かすことで自身の帝国を拡大させる
●巨大なメディア帝国を使って自身が政治を動かす
両方が彼の目的なのだと分かる。
つまり彼の目的は世界を手中に収めること。
まるで世界の王だ。世界征服者だ。
本当に恐ろしい。
番組には政治を操るルパート王の事例がいくつもでてくる。まずはイギリスの首相だったトニー・ブレア。労働党(イギリスの左派政党)がマードックと組んでいたと知って今回驚いた。
ビリオネアの多くがそうであるようにルパートは保守&右派的政治思想を持っていると言われている。しかし英保守党のジョン・メジャー首相はルパートになびかず、総選挙(1997年)を機会にルパートは全力で労働党を応援する。イギリスのタブロイド新聞『SUN』と『News of the World』を使いまくってダイレクトなキャンペーンを行い、労働党は勝利。トニー・ブレア首相が誕生した。
国を動かす力がメディア王、というかルパート王にあることを証明した出来事だ。
しかしその後、調子に乗っていたマードック帝国が1度揺るいだ時期がある。2011年、ルパートがオーナーを務めるメディアが、電話盗聴をしていたことが発覚したからだ。この時期の最側近は次男ジェームス。事後処理に失敗したマードック親子は、王国への信頼を奈落の底に落とし、かつジェームスも後継者レースから脱落した。
マードック帝国絶体絶命。そしてこの時期、後継者レースの競走馬もいなくなってしまっていた。
しかしここで終わらないのがルパート王の凄いところ。次に味方につけたのはイギリスでは当時極右政党としてEU離脱をけん引していたUKIP(イギリス独立党)のナイジェル・ファラージ。そしてもうすぐ「元・大統領」になるドナルド・トランプ。
ルパート王はEU圏内であるイギリスでは仕事がやりづらくて仕方ない。なのでとっととイギリスにEU離脱してほしかったのだ。そして元々保守&右派思想の王様なので、トランプ閣下との相性はもちろんバッチリ。
EU離脱とトランプの大統領選をタブロイド紙と配下のテレビ局を使ってこれまた全力で応援し、見事に勝利する。
あっという間に王国再生。さすが、ルパート王! ビジネスマンのはずなのに、政治をするする動かしていく。まさに彼は世界の王様そのものだ。
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番組に登場する人物は、家族だけでなくマードック帝国の側近や政治家など多数。なので本来は複雑な話なのだと思うのだが、番組は後継者争いと政治の流れをうまく合致させて説明しているので、視聴している分にはとても分かりやすい。
そして番組の最後に、後継者(ほぼ当確)が長男ラクランであることをが明らかになる。
ルパートとラクランを繋ぐのは、政治信条。ラクランは、父の右派&ポピュリスト的思想を受け継いでいる。マードック帝国はトランプやファラージに肩入れするあたりからみても、ホラを吹くことに躊躇していない業務方針なのだろう。父の思想と経営方針に合意していなければ、後継者としてトップに君臨するのは無理である。
この点において、ラクランはパーフェクトな息子なのだ。
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番組はここで終わるのだが、放送後にアメリカ大統領選の結果が出た。
今回、マードック帝国&親子の必死の応援にもかかわらずトランプ閣下は敗北した。
バイデン新大統領がマードック帝国になびくとはちょっと思えない。
次の4年で、マードック帝国は新たな局面を迎えるのかもしれない。
そして「ほぼ後継者に当確」したはずのラクランの立場だってどうなるかは分からない。ルパート王3番目の妻ウェンディ・デンの娘2人も現在19歳と17歳。どんどん成長している。
ドラマ『キング・オブ・メディア』同様、マードック帝国の後継者ドラマもまだ終わってないのかもしれない。
BBC iPlayer『The Rise of the Murdoch Dynasty』
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