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【映画のはなし】どうも私はポール・マッカートニーのファンらしい:映画『イエスタディ』 by ダニー・ボイル
家事をしているときは、たいてい「ながら」でもう1つ何かやっている。
料理の場合はテレビ番組等の映像を斜め見し、掃除のときはたいていラジオを聴いている。
別に「ながら」がなくてもいいのだが、「ながら」があるとさらに楽しい。私はそこそこの掃除魔だが、掃除が好きなわけではない。特に入浴後の風呂掃除は苦痛である。しかし風呂掃除の時間を「大好きなラジオ番組『荻上チキのセッション22』を聞く時間」と決めて以来、まったく苦痛ではなくなった。
大変ありがたい「ながら様」なのである。
旦那のヒトのながらは、何をおいても音楽である。
夕飯の後片づけ中も必ず何か音楽を掛けずにいられない。大抵は「Spotify」を掛けている。
大人二人の夕食の後片づけなんて、あっという間に終わる。かつ「掃除魔」のわたくしがメインの料理人であるわけなので、大抵の片づけは調理中に終わっている。お皿をサッとお湯で流して食洗器にぶち込み、ガスレンジの周りを拭き、ふきんを洗い、ゴミを処理したらもう終わり。10分も掛からないで終了する。
日々のルーティーンなのだからして、このプロセスに今や無駄な動きなんぞない。長年の経験によって改良が重ねられ、計算されつくしたプロセスである。
何度も書くが、あっという間だ。
そのことを重々知っているはずなのに、旦那のヒトは台所に来るとまずは「音楽選び」を開始する。スマホ画面をスワイプしながら、あれこれやっている。
その間にも私の片づけはテキパキと進む。そしてときには旦那のヒトの音楽選定が終わらぬうちに「片付け終了!」のこともある。
そして旦那のヒトは私にこっぴどく叱られるわけである。
これの不毛なやりとりを何年も繰り返しているのだが、旦那のヒトは「それでも、どーしても片付けながら音楽を聴きたい」と言うのである。
私はどちらかというと「文字と映像の人」で、旦那のヒトは「文字&音楽の人」だ。本好きは共通で、音楽の趣味も被ってはいるが、音楽愛は旦那のヒトの方が私の何倍もある。
という日々のどうでもいい「ながら音楽」にまつわる諍(いさか)いを繰り返す中で、ワタクシはある事実に気づかされてしまった。
どうもわたくしは「ポール・マッカートニーのファンらしい」
ということに。
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ビートルズのことは“普通に”好きだ。人生初購入のアルバム(LP)は『Let it be』だったし、いくつか大好きな曲もある。教会で小さな合唱隊をやっているのだが、ビートルズの曲を選んで歌ったりもしている。
でもそんなに詳しくない。
超有名曲以外は「どこかで聞いたことあるかも」とは思っても、ビートルズの曲だとは知らないものもたくさんある。
↑ 一番好きな曲は『Let it be』です。
これはずっと変わらないです。
うちはサブスク系をまったくやっていないので、Spotifyも無料会員である。となるとCMはスキップできないし、好みじゃない曲が掛かっても1時間に6回までしかスキップできない。
Spotifyさまが「おまえら、これ好きだろ?」と思う曲を勝手に流し、私達はそれに従うしかないのである。
旦那のヒトが選ぶのは大体「80~90年代UKロック系」なのだが、そこからどんどん派生していき、今どきだとジョージ・エズラ、昔のものだとビートルズまでさかのぼっていろいろ掛かる。
Spotify 様の上から目線でのチョイスにより、たくさんの曲を知ることができたのはとても良かった。
時々「なぜっ!?」ってのも掛かるけどね。
↑「なぜ!?」曲の1つ、ブリトニー・スピアーズの『Baby One More Time』。突然かかって大変驚く。でも実はわたくしはこのPVが大好きなのである。ぶりちゃんのチープな小悪魔っぷりが可愛らしく、自宅カラオケにぴったりである。しかしなぜSpotify様がそのことをご存知なのか…。
さて、そんな上から目線チョイスで天から降ってくる曲を聞きながら洗い物なんぞをしているのだが、旦那のヒトがある日こんなことを言ったのである。
「ハナちゃんは、ポール・マッカートニーが好きなんだね」
えっ? 何言ってんの?
「ハナちゃんは、ポール・マッカートニーが作った曲の時によく反応してる。歌ったりしてる。ポールが好きなんだね」
…な、なんですって!?
「ビートルズの曲でも、ジョン・レノンの曲のときはケッコー無反応だよ」
「だからポールが好きなんだよ」
(もう1回)な、何ですって!?
ビートルズは好きなんです。
ここまではOK。
でも私はポール・マッカートニーのことは、割と積極的に嫌いなのだ。
もちろん個人的に知り合いではないので本当の“人となり”は知らない。本当は良い人なのかもしれないが、知り合いじゃないからメディア・イメージとか公的な言動とかだけで情報は十分だ。
長くなるので書かないけれど、1回かなり強烈に「ゲ―――!!」と思う出来事があり(実は1回だけ遠くからお姿をお見かけしたことがあるのです)、以来好感を全く持っていない。
そしてついでに言うとジョン・レノンも結構嫌いである。
(↑オノ・ヨーコがらみとかの色々も含め。これもいろいろ言いたいことがありますが長くなるので書きません)。
●ビートルズは好きだけど、詳しくない。
● ポールとジョンの音楽性も良く知らない。でも人物像としては結構積極的に嫌いっぽい。
● あとの2人について特に思いはありません。
ぐらいのテキトーな感じでずっとやってきた。
ビートルズは音楽界の巨人だから「有名な歌謡曲」として知ってる程度でいいの、的な立ち位置で全然良かったのよ、ワタクシ。
なのに旦那のヒトが突然変な事を言い出すので
「そんなことない。ポール・マッカトニーが嫌いです(怒)」
と力強く言い返そうと思った、その絶妙のタイミングでSpotifyからこの曲↓が流れてきた。
↑ポール様がお作りになって歌唱もなさっている、映画『007死ぬのは奴らだ』のテーマ曲です。もちろんこの時点でワタクシはポール様の作品だとは知らない。
紛争休止。ちょっと曲を聴いてみる。
途中途中の転調で「なんじゃい!?」と思うところもあるのだが、ぎゅんぎゅん緊張感がはりつめるあたりのところで
「お~~カッケー!」
「これ、誰の曲?」
とつぶやいてしまったのだからどうしようもない。
旦那のヒトは抑揚もなく
「ポール・マッカートニー」
と棒読み。
(「だから言ったじゃん」という心の声がこだまする。)
否定しようがなくなった。
というわけで「どうもポール様のファンらしい」ワタクシですが、最近ダニー・ボイルの最新作『イエスタディ』を見た。
ある日突然世の中が「ビートルズの存在しなかった」世界になってしまう。でもたった一人、売れないミュージシャン青年ジャックだけにビートルズの記憶が残っていた。何気なく「イエスタデイ」を弾き語りすると、皆が大感動。そこからジャックの人生が急展開してゆく…という少しだけSFの入ったコメディ作品だ。
肩肘はらず気楽に見られる楽しい作品だ。そして改めて(当たり前のことなんだけど)
ビートルズってすごいんだなあ
と思わされる映画だ。特にファンでなくても、人生のどこかの段階でビートルズ曲が鳴っている。音楽と情景はセットで人の記憶に残り続けるものだから、ビートルズの曲を掛けるとわ~っと思い出がよみがえってしまう。
良い思い出もあるけど、もう忘れたい恥ずかしい思い出も多いなあ(笑)。
映画は割と身構えてして観ることが多いワタクシだが、この作品は自分のことを振り返りながらも、気負わず最後まで見られるのが良い。コーヒーを飲みながら「気楽に見たい」ときにぴったりの作品だった。
エンディングで「ヘイ、ジュード」が流れる。
メロディは大好きだしよく知っている。でもそういえば歌詞をしっかり読みながら聞いたのは今回が初めてだった。(注:英語字幕版で見たからです。)
『ヘイ・ジュード』:名義はレノン=マッカートニーだが、作詞も作曲もポール。この曲はジョン・レノンとオノ・ヨーコとの関係がすでに始まっていた頃、両親の不仲で元気がなかったジョンの息子ジュリアン(当時5歳)のために作られた曲として有名である。
ちゃんと読んでびっくり。
素敵な彼女を手に入れれば、人生大丈夫だからさ!
的なことを、丁寧に、そして執拗なまでに言い続けている歌なのである!
♪心が苦しくなったら、ジュード、この言葉を繰り返して思い出して
「重荷を自分で背負いすぎないで」
(中略)
♪ 分かっているだろ、ジュード。やるのは君自身なんだ。
やるべきことを、君は分かっているはず
この辺は、大変大きな話だ。人生の教訓だ。深い話だ。
しかし、結局の結論は
♪ 彼女とつき合えば
すべては良くなるよ
であって、その後
♪Better better better better better better, oh
もっともっと良くなる、良くなる、良くなるよ~!
と絶叫までしているのだ!
5歳の子供を諭すには大人びた内容ではある。そしてとてつもなくケーハクである。
でも…でも…
やや拡大解釈するならば
「愛が人を救う」
のは事実だ。
分かりやすい言葉で真理をついている、といっても過言ではない。
軽くて深いぜ、ポール様。
だからこそ、世界を変えたんだねえ。
↑『キャリー・ザット・ウェイト』
1968年、アルバム『アビイ・ロード』の最後の曲。
重荷を背負っている青年についての歌。人生の苦さを歌っています。この曲も好きです。
仕方ない。
認めるしかない。
私はポール様が大好きらしい。
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