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20206/4

【映画のはなし】昭和世代と平成世代を分けるもの。映画『小さいおうち』

普段は昭和生まれに囲まれて生きているが、ときどき「平成生まれ」という人に会う。

まあ、当たり前だ。平成元年は1989年。平成生まれの最年長者は30歳を超えているのだから。

しかし考えてみたら、私だって生きているのほとんどの時間が平成だ。だから「平成世代」であるはずなのだが、そういうにはあまりに昭和の記憶が鮮明すぎる。それに平成の半分ぐらいはロンドンにいるので、その辺も含めて自分は昭和を引きずって生きているらしい。

そんなわけで昭和世代だという自覚はあるが、昭和という時代に良い印象はあまりない。昭和には苦い思い出がありすぎる。昭和の子供、しかも田舎っ子はルールでがんじがらめだった。今思い出しても息苦しくて反吐がでそうだ。

でも、矛盾するけれど、懐かしく思いだせることもたくさんある。

山田洋二監督の映画『小さいおうち』は昭和レトロ感がプンプンと漂う映画だ。

大学生の健史(妻夫木聡)の大叔母タキ(倍賞千恵子)が亡くなった。遺品の中に、健史のすすめでタキが綴っていた「自叙伝」の大学ノートがあった。タキは昭和11年、山形から上京。おもちゃ会社の重役である平井(片岡孝太郎)の家の女中をしていた。赤い屋根のモダンなお家。美しくて優しい妻・時子(松たかこ)と可愛い“坊や”で、家族同然に扱われ、楽しく暮らしていたタキ。しかしある時、平井が部下の板倉(吉岡秀隆)を連れてきたころから、家の中に小さな秘密が生まれてしまう。

現代、そしてタキの女中時代である日中戦争あたりから終戦直前までの回想を行ったり来たりしながら、物語は進んでいく。

登場するこまごまとした小物のデザインやいちいち愛らしくて素敵だ。角砂糖の箱、電球の傘、色ガラスの模様が入った窓、カルピスをかき回すマドラー、ほうろうのヤカン。そしてとても上等そうにみえる青いティーセットも印象的だ。持ち手に金の装飾がされた、目の覚めるような青のティーポッドはとても美しく、時子さんが優雅な手つきで淹れる紅茶から上品な香りが立ち昇る(ように見える)。そんな細部のあれこれをもっと眺めていたいのに、どんどん映像が流れていってしまうのが残念に思うほど 、丁寧に作られている作品だ。

↑映画公開記念で、こんなん発売されたそうです。可愛いけれど、ちょっと…高い。高すぎる。

タイトルが『小さなおうち」の通り、物語のもう1つの主役は 赤い屋根のお家だ。きゅっきゅと磨き上げられた廊下、障子のある床の間、そして上から紐が垂れている天井の照明。和の風景の中にほどよく洋が混じったこの家は、とても心地よさそうに見える。こんなに素敵な家ではなかったけれど、『小さなおうち』の家を見て、母の実家(祖父母の家)を思い出した。廊下の床板は飴色で、木枠の窓は開け閉めするたびに「カタカタ」と鳴った。今思い出すと、すきま風が入りそうな家だったなあ。

「昭和の何か」を自分自身の一部として、体や脳内にしみこんでいるか?いないのか?

その辺が「昭和世代」と「平成世代」の分かれ目なのかもしれないと、映画を見ながら思った。

===

この映画をただの可愛いレトロ映画ではなく、結局のところ戦争の時代を描いた反戦映画と言っても良いと思う。人々は疑いなく一方向を見つめ、若者は兵隊にとられ、死ななくてよい人が死んでいく。その様を、小さなお家で起こった「ささやかな秘密」を通して描いている。

私の両親は、ぎりぎりではあるが戦争の記憶がある。2年前に亡くなった父は、7歳の時に終戦を迎えた。玉音放送を聞き、大人たちが泣き崩れた様子のことを話してくれた。そして両親共に、東京大空襲の日の記憶もある。母は当時4歳。茨城県に住んでいたが、「東京の方を見ると、空が真っ赤だったのを憶えている」と言っていた。

私も含め戦後の世代が多くなり、世の中から戦争の記憶が薄れつつある。しかし山田洋二監督のように、しつこくしつこく戦争の時代を映画にしてくれている監督がいることで、記憶は繋がれている。

必ずいつか、戦争を知る世代はいなくなる。その後、誰もこのことを語らなくなってしまうのだろうか?

ニュースやSNSを見る限り、怖い方向に進んでいると危惧することが多いこの頃。戦争の体験者いなくなったとき、すべてすっかり忘れて、あっさり怖い時代に進んでしまうのだろうか?

そんな風に思う事もあったが、この映画の原作『小さいおうち』の作者である中島京子さんは1964年生まれ。きっと私同様、戦争を知る親を持つ世代なのだと思う。本人に戦争体験はなくても、こうした素晴らしい作品であの時代を表現してくれる作家がいることに、大きな希望に感じた。

好戦的な偉い人たちの発言を聞くたびに、叫んだり、ため息をついたりしている。でもせっかく叫び、せっかくため息つくのなら、皆の声を一束にして、大きな風や音にしないと。

そんなことも考えた映画だった。

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