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【映画のはなし】ファッション学生の気持ちをくじく、超ド級のホラー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
この映画はポスターを見たときから心にグッときて、絶対観たい!と思っていた作品だった。
私自身が刺繍や縫物を趣味としていることもあり、ファブリック系に目がない。特に↑ポスターの下の写真、マテリアルがずらりと並ぶアトリエの写真に惹きつけられた。
英語のタイトルは「Dries」だけ。特に副題はないのだが、日本語タイトルにはわざわざ「ファブリックと花を愛する男」と入っている。
宣材写真で紹介されている花や庭と戯れるドリス様の写真も美しい。
草木からインスピレーションを得て作られた美しいファブリックや服、芸術的なキャットウォークの様子、そしてドリスの自宅インテリアも見られる“素敵映画”なんだろうなあと思い、観たくてたまらなかったのだ。
↑この予告編も良かったです。ファブリック、キャットウォーク、そしてドリスの自宅や庭がまんべんなく入っていて、興味を掻き立てられます。
念願かなってやっと見たのだが、ちょっと意外な作品だった。
最初に頭に浮かんだのは
「こりゃ、ファッション志望者にとっては超ド級のホラー映画だ」
ということ。
そして
「ファッション・デザイナーになりたい人が減るかも」
とも思った。
美しいシーンもたくさん登場するが、物語の軸はドリス様本人が淡々と語る、自分批評と解説である。
ドリス様は一見「おしゃれなビジネスマン」という佇まいの人物だ。
有名デザイナーには一目見て只者じゃない感が出ている「じゃーん!ファッション業界の人です」的な人がよくいる。しかしドリスはまったく奇抜な恰好をしていない。白いシャツ、黒のセーターとスラックスの「きちんとした」ビジネスウェアで画面に登場する。「あれ?本人は作品の印象よりはやや地味なのね」と一瞬思う。仕立ての良い服を着た、美意識の高い出来るビジネスマンの印象を持った。
その彼がこれまでのシーズンを振り返り「このコレクションは評判が悪かった」「このシーズンは服が売れなかった」とかなり厳しい言葉で自分をきっちり批判する。ますますビジネスマンっぽいのだが、その言動から美意識の塊であり完璧主義者でもあることは明白だ。
そして何より、年に2回のコレクションシーズンにメンズとレディースの両方、計4回に参戦しているドリス様がいかに忙しいのか?がビシバシ伝わってくる映画なのだ。
この忙しっぷりが、本当にすさまじい。毎シーズンまったく異なるテーマのコレクションをデザインしなくてはならない。そしてショーの会場を探し、演出する。 完璧主義者のドリス様はどの段階でも一切手を抜かないのだが、 それを4回やるのだから忙しくないわけがない。
どれだけの創造力があれば毎シーズンを乗り切れるのか? そんなにアイデアは溢れてくるものなのだろうか?と外野から見ているだけでも唖然とする。一流のデザイナーにとっては「それが日常だから」という事なのかもしれないが、「ファッションが好きなのでデザイナーになりたいなっ!♡」ぐらいの若いファッション志望の学生さんが見たら、震えあがるんじゃなかろうか?
今までファッション系のドキュメンタリーは結構見てきた。どの作品も「夢」だけではなく「現実」の部分も描いていたが、『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』ほど、厳しい現実を見せてくれた作品はなかった。
この意味において、この作品は大変画期的なのである。
===
ドリス様の美意識がもっとも垣間見えるシーンはここ↓だろう。
ドリス様は家のことも手を抜かない。ドリス様が料理すると、ニンジンの皮むきだって美しく見える。ただのサラダも「デザイン」されている。
そして広大な庭(私邸とは思えない広さに驚く)から摘んだ花を、パートナーのパトリック・ファンヘルーヴェと共に家中に活けるのだが、
↓このシーンです。
↓このシーンから再生するようにしてあります。
「ここに飾る花には必ず黄色を入れる。イスの色と揃えるんだ。インテリアの色を繰り出す」
わ~~
大変~~
生活そのものにきまりごとがものすごくたくさんあったり、美意識レベルをキープして生きつづけるのって大変じゃないですか?
と凡人の私は思い、このシーンで思わず叫んでしまった。
でも美意識レベルを保って生活することがが日常のドリス様には、これが1番心地よいのかもしれない。広いお屋敷に花を活ける作業だって、毎週だったら大変だ。だって「テキトーに」じゃなくて、ちゃんと美しく飾らないとならないのだから。
でもドリス様のような美意識の人とってはこんなのおちゃのこさいさいで、むしろこういった作業が安らぎなのかもしれない。
同じ美意識を共有できるパートナーがいるドリス様は本当に幸せだ。美意識を全うするために孤独を選ぶ人も多いと思うからだ。

ただの外野ファッション映画好きとしてはとても面白い映画だったが、ホラー要素でやる気をもぎ取られたファッション学生さんがどのぐらいいるのだろう?
でも学生さんたちよ。このレベルを目指すなら、このぐらいはサクッと受け入れられないとダメなのかもね。どの世界も一流は厳しいのですよ。
優雅で香しい紅茶映画かと思って見始めたけれど、かなり苦めのエスプレッソ映画だった。

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