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20207/16

【ドキュメンタリーを書き留める】キリスト者の私が見た、別の宗教:映画『A』『A2』(森達也監督)

ドキュメンタリー作品が大好きです。これまでに見て心に残ったドキュメンタリー作品を紹介・記録するアーカイブ。素晴らしすぎて書かずにいられない作品を書き留めます。日本とイギリスの作品が多いですが、国を問わずどん欲に見ています。苦めのコーヒーに合う作品ばかりです。

私はキリスト教の信者なので、「宗教やってる人」と言われることがある。

「やってる」っていわれると…う~ん、何かやってるってわけでもないんだけど~と言いたいときもないわけじゃないけど、

でもまあ、いいです。
宗教やってます(笑)。

ある段階で神を持って生きていくと決めたのだが、「決めた」というほど別に力強く決意したわけでもない。

あるとき「そういうことか」と思ったことはあったが、もっと「そっか」というふんわりとした感じと「ひとまず、(神に)ついてってみるか」という、軽さがあった。

あくまで私の場合は…です。もっと「一大決心」だった人もたくさんいるでしょう。

その辺の感覚とその後の信仰生活で感じた「キリスト者になって良かったな」という思いについて、分かりやすい言葉にするのは案外難しい。あまりにも個人的体験だからだ。

でも言葉にしたいなあと思ってこの数年ぐるぐるやっている。

私自身のためには別にわざわざ言葉にする必要はない。でもキリスト教や「なぜ信仰を持ったのか?」的なことを、人に聞かれる(というか、聞いてくれる)機会は結構あるのだ。

この手の質問に対し、信者仲間がどう答えているのかも結構聞いているのだが、ざっくり言えば4つのタイプに分かれる。

①奇跡系
祈ったら病気が治ったとか、ありえないことが起こった等々、何らかの「雷に打たれた」的ミラクルに遭遇したので信じてみた、みたいな話。

②行間がない系
「昔は宗教とか嫌いだったけど」→「突然理解した」までの説明がほぼない。でも「キリスト者になって良かった」話は延々と長い。

③キリスト教用語オンパレード系
色々聞かれても、キリスト用語満載で、信者でしか察せないことしか言わない。

④分かりやすく答えようと頑張る系
普通の言葉を使い、自分の体験を割と丁寧に言おうとと頑張ってみる系。

皆、個人的な体験なので確かに分かりやすく話すのは難しい。とはいえ、これまであまりにも①②③方式で語る人たちを見すぎてしまい、辟易している。

キリスト教は「キリストの言葉を世に伝えること」が使命の1つとされているのに、「アンタ、ちょっとでも伝える気、あんの?」と横から突っ込みたくなるようこともしばしば。

だから、せめて私なんぞに聞いて下さる方がいるときは、出来るだけ④で頑張りたいと思うのだ。

そんなことを日ごろ考えながら「宗教やってる」わたくしですが、別の宗教の信者についても大変興味がある。

キリスト教に満足してますので別の宗教を信じたいというのはないけれど、「神を信じる」行為そのものに興味があるので、他の宗教関係のドキュメンタリーも大好物だ。

で、ずっと見たかったこの2本を一気に見た。

●『A』(森達也監督、1998年)

●『A2』(森達也監督、2001年)

1995年に起こった地下鉄サリン事件。そのときメディア対応を行っていた荒木浩・広報部長を追った『A』と、その後Aleph(アレフ)と名を変えたオウムの後継団体で再び荒木氏と出家信者の日々を撮影したのが『A2』である。

とてもとても面白かったが、特に『A2』の方が強烈だった。

地下鉄サリン事件、松本サリン事件、そして坂本弁護士一家殺害などの凶悪事件を起こしたオウムだが、事件後も解体せず、残った出家信者も多い。

「犯罪が分かっても、なぜ信者が残るのだろう?」「何がそんなに魅力なのか?」とずっと思っていたのだが、この2つの作品にはその答えが分かりやすく描かれている。

人間の持つの部分が幼い時から違和感でしかない人たちがいて、業や欲の払拭を目指す人がいくところがオウム(Aleph)しかないから、残るしかなかったのだろう。

でもきっと他に同じようなことを目指す団体があれば、きっとオウムでなくても良かった人もいると思う。事件のことなんて何も知らない末端信者は、「凶悪テロ集団」と言われることが嫌にきまっている。でも「目指すもの」を追求できる場所が他にないから、「凶悪集団」にいることに抵抗を感じつつも去ることができない(と、理解した)。

オウムは麻原彰晃(松本智津夫)が世界制覇を目指していたころずいぶん信者を増やしたようだが、『A』『A2』を見ている限り、あまり一般に向けて説明する必要がない宗教だな、と思った。

目指すことがあまりにこの世の営みを否定するものなので、一般にはどんなに頑張っても広まらない。でもある一定数、神秘世界や仙人のような清さに憧れる人はいるから、看板さえ上げてさえいれば、必要な人が自分で探してやってくる宗教だと思うからだ。

この部分に置いて、キリスト教との違いがハッキリ分かったのも面白かったです。キリスト教は国教にしている国が多いぐらいの、かなり一般向け宗教なので。

『A』は荒木氏の「人の良さ」がかなり出ている作品なので、オウムの宣伝に繋がったと批判されたのは知っている。確かに作品を見ると「普通の信者は悪い人達じゃないみたいだね」とは思う。でもオウムは「すべての欲からの脱却」と「あの世」を見ている団体だから、「この世」の人生を楽しみたい人は絶対自分から出向きたいと思わない場所であることも描かれている。

それは『A』で荒木氏が森監督と会話する数分のシーンでハッキリ分かる。(このシーンも静かだが強烈である)。

だから一般に向けて宣伝になったとは言えないどころか、逆な気もした。

しかしこれは同時に、ごく少数の人には「行くべき場所だ」と思わせてしまう可能性もある。この点においては宣伝になっているが、そういう方はすでにネットで調べて自分から出向いているのかも、とも思う。でも「ごく少数」の方が出向くハードルをやや下げたかもしれない。内部事情が分かるので、行きやすくはなる。

===

『A2』が『A』以上に興味深いのは、「秋田さん」という一般信者に密着したことにある。

「オウム出ていけ」と言ってた近隣住人たちが、次第に信者たちと仲良くなり、最後は「元気でね」と別れる様は、荒木氏と同じぐらい人のよさそうな「秋田さん」や他の出家信徒の人柄を物語るが、作品の最後の最後に「秋田さん」の過去が見える(わたくし的には)かなりの衝撃の数分がある。

この記事を読んで映画を見てくださる方もいると思うので詳しくは書かないが、ものすごく毛並みのよさそうなおぼっちゃま顔の青年(信者ではない)が登場し、 「秋田さん」と 会話をするシーンがあるのだ。

そのシーンで、2人は5年前、大学で同じ「馬術部」の仲間だったことが判明する。

馬術部って…体育会の中でも、そこそこお金がないと続けられない部活だと思う。

たいへんオウムっぽくない部活である。

そこから「秋田さん」に何があったのか? 

それともずっと秋田さんは神秘の国に生きていたかったけど、何とか現世でも頑張ろうと思っての「馬術部」だったのだろうか?

「秋田さん」 はおぼっちゃま顔の青年に、自分の信仰について“ほんのひとこと”だけ語るのだが、その説明がもうなんていうか、笑っちゃうぐらい「全然分かんない」のである。

つまり、全然説明する気がないのである。

オウムは、自分が「あちら側」だと自覚しない人に説明しても、ぜんぜん伝道にならない宗教なのだ。そのことがあっけないぐらいハッキリした会話だった。

『A』(135分)『A2』(126分)、トータルで261分。そこそこ長いのだが、すべては「秋田さんとおぼっちゃまとの会話」シーンの衝撃に繋がるための序章だったように私には感じた。そのぐらいのインパクトを残した数分だった。

続編の方が良かったと感じる映画は少ないが、わたしにとって『A2』はそんな映画だった。

『A2』公開から19年。もうずいぶんたっている。荒木氏はまだAlephの偉い人としてとどまっているが、「秋田さん」は今どうしているのかな…?

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