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映画『ノマドランド』こちら側とあちら側の薄くて脆い境界線(ネタバレほぼなし)
先日発表された米ゴールデン・グローブ賞で作品賞・ドラマ部門、監督賞(映画部門)を受賞し、オスカーの本命とされている話題作『ノマドランド』。日本でも3月26日から公開ですね。
一足先に見ました。
↓配給元「サーチライト・ピクチャーズ」サイトの作品紹介、コピペです。
企業の破たんと共に、長年住み慣れたネバタ州の住居も失ったファーンは、キャンピングカーに亡き夫との思い出を詰め込んで、〈現代のノマド=遊牧民〉として、季節労働の現場を渡り歩く。その日、その日を懸命に乗り越えながら、往く先々で出会うノマドたちとの心の交流と共に、誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく──。
https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland/about.html
↓ここから感想&レビューです。ネタバレはほぼなしのつもりで書いていますが、何も知らずに映画を見たい方はご注意下さい。
映画を見ながら、10年ちょっと前のことを思い出した。
会社員時代、やたらと出張していた時期がある。3年連続、同じ時期にアメリカ西海岸(ビバリーヒルズやらサンタモニカやら周辺)に出張に行った。
1年目と2年目はごく普通の、イメージどおりの「アメリカ西海岸」の風景だった。週末をはさんでいたので、自由時間に浮かれつつ観光もした。
歳がバレるが、
『レス・ザン・ゼロ』の世界だなあ…とか、
お~!ビバヒル~!…とか
太田裕美!!(っていうか、キリンオレンジ)…とか
私が探す動画は、画角が4:3が多い…。
懐かしい「アメリカ西海岸」イメージを思い出しつつキョロキョロ。仕事は毎度大変だったが、楽しい時間もあった。
でも3年目に驚いた。様相が一変していたからだ。
サブプライムローンの影響が目の前にハッキリと広がっていた。サンタモニカのホテル街に、テント暮らしの人がたくさん出没していた。
あるイベントのために出張だったが、イベント運営側から「ホテルから出ないで」というお達しがあり、ホテルと会場の行き来はシャトルバスになった。
前の年はフラフラと歩いて会場まで行っていたし、夕方、ショッピング街を散歩して、ロンドンにはない「FAMIMA(日本のファミマがアメリカに出店していた)」で唐揚げやらおにぎり買うのも楽しみだったのに。
3年目はそんなことは一切できなかった。
会場からの行き帰り、シャトルバスの窓越しにすっかりキャンプ場となった緑地帯を眺めていると、何人ものキャンパーたちと目が合った。
「そんな目で見るな」
「何様のつもりで俺たち/私たちを見てるんだ」
と言われている気がした。
そして
「俺だって/私だって、ついこの間までは『そっち側』にいたんだ」
と言う声が聞こえてくるようだった。
『ノマドランド』の主人公ファーンは何らかの理由で家を失い、車中生活をしている。凍てつく冬は暖かい土地に移って仕事を探し、季節が変わるとまた移動する。この映画は、そんな現代の「ノマド(遊牧民)」を描いたロードムービーだ。
フェーンの毅然とした態度、ノマドコミュニティーの心のふれあい、そして土地土地で映し出される自然の美しさに圧倒された。ずっと眺めていたいほどに美しい。
あまりに雄大で豊かなアメリカの自然。直面している現実をどこか優しく包み込むその風景に、癒される気持ちにもなる。
「こんな生活もいいかも」
と一瞬思いそうにもなる。
でも、
でも、
たぶん違う。
映画には「選んで」ノマドとなった人たちも出てくる。しかし実際のノマドたちは、ごく一部を除き、その境遇を自分で選んではいないはずだ。
ついこの間までは、私たちと同じ「こちら側」にいた人たちだ。ある日突然、「こっち」から「あっち」に移動せざるを得なかった人たち。
経済破綻は(たぶん)突然やってくる。この間まで、暖かな家の中で穏やかに目を覚ましていたのに、何かのきっかけで仕事を失い、お金を失ったら? きっとすぐに家も失い、あっという間に「あちら側」に行きついてしまう。まるでドミノ倒しのように。私にも起こりえることだ。
「あっち」と「こっち」の薄すぎる境界線。それを思いながらこの映画を見ると、フェーンと彼女の周りの人達に対する社会の冷たさや、冬の凍てつく寒さがキーンと伝わってくる。
それでも、人は生きていかなくてはならない。
厳しいなあ。
体がきしむような痛みを覚えながらも(絶望)、ときにはそのことを忘れさせてくれるぐらい美しい自然(希望)。絶望と希望との間に揺れながら、それでもしっかり自分の足で立つフェーンの姿はとても美しい。
彼女の佇まいが1番の希望。そんな映画だった。
フランシス・マクドーマンドの演技は圧巻。3度目のオスカー、なるか?
文句なしに5星。
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