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20202/28

【今日の云々】中二病にもなれないボクの歌:The Beach Boy「God Only Knows」

コーヒー&紅茶しばりで「マトカ」をお届けするようになってから、数カ月。

この「しばり」を始めたことには実は理由があるのです。それについては後日お伝えしますです。

何かを見たり・聞いたり・読んだりするたびに「これって紅茶?」「それともコーヒー?」と考えたりするようになった。

このところ喫茶店がらみで、コーヒー&紅茶を想起させる昭和歌謡2曲について書いたのだが、

紅茶と音楽:「ハロー・グッバイ」(柏原よしえ歌唱)
コーヒーと音楽:「まちぶせ」(石川ひとみ歌唱)

実のところ、あまりポンポンと音楽とコーヒー&紅茶の組み合わせが出てこない。映画や本は選びきれないぐらいボンボン思い浮かぶのに。

それはたぶん私が日常的に聴いている音楽がロック&ポップス系なことと関係しているのだと思う。この手の音楽と相性がいいのはどうしたって、

お酒」。

カフェでコーヒーを飲んでいるとき、たまたまBGMにロックやポップス調の曲が掛かり、「いいな」と思うことはある。その場の雰囲気に合っていることも多い。

でも「コーヒー飲むのにぴったりだよね」っていうほどには直結しない。

紅茶だと「昔よく聞いたクラシックがあるかな」なんて思っていたけれど、クラシックもワインやウィスキーの方が相性が良い気がする。

相方ヨウコさんは幅広いジャンルの音楽を聴いているので、ワタクシのように「コーヒー&紅茶音楽が思い浮かばない」ということはないらしい。

すばらしいです。

ふむ、こういうところで自分の底の浅さというか「大していろいろ詰まってない」内面の薄っぺらさがばれてしまうとは(笑恥)。

…と言う感じで「コーヒー&紅茶音楽ってなんだろ?」をことあるごとに考える日々なのですが、ある晩、かなりの遠回りで「そうそう、大好きなコーヒー系ロック(ポップス)、1曲あったじゃん!」と思い出した。

「遠回り」です。↓下記、前置きが長いです。すみません。

===*===*===

最近毎晩、布団の中で何らか映像をスマホでかけっぱなしにして眠りについている。ドラマだったりドキュメンタリーだったりいろいろだが、日本未公開の米ドラマ「Shrill」も気に入っている1本だ。

Shrill シーズン2の予告編

日本未公開ドラマの話でごめんなさい。

「Shrill」とは「やかましい」という意味の英単語で、かな~り口のたつ、丸ぽちゃ女子アニーが主人公のドラマだ。米Hulu製作、イギリスではBBCで放送している。

ダメ男を切れなかったり、職場でうまくいかなかったり、分かり合えない親との関係に悩んだりのアニーちゃん。太っていることもコンプレックスだし、本当に人生はうまくいかないもの。

それでも元気に前向きに生きていくアニーの姿が共感を呼び、現在シーズン2まで製作されている。1話完結で30分と短く、真剣に見なくても頭に入る内容なのも気に入っている。

私は幼少期から不眠気味なのだが、映像を見ながらだと自然に眠りに落ちるようだとごく最近気づいた。

気づくのが遅すぎる。30年前に気づきたかった。

スマホのアプリでストリーミングしたまま寝るのだが、早ければ番組終了間に寝堕ちている。

そんな風に布団の中で「20分ぐらい(+寝堕ちているので見ない10分)」見ているのだが、シーズン2の2話目を見ていたある日、この↓シーンを見たのだった。

失恋して落ち込んでいる同居人のフラン(彼女はレズビアン)をクラブに連れ出すアニー。しばらく踊った後、ステージタイムになった。友人のエミリーのパフォーマンスの後、軽快に話すコメディアン&シンガーがステージに登場。

ちょっと小噺をした後、「ここにいる、あなた、1人1人のための歌うよ」と言って、煙草を片手にくゆらせながら歌い始めるのだが…

歌い始めるとその場の空気が変わる、という場面だ。

上の短いビデオではそれまでのドラマの流れが分からないので、「空気が変わる」というところまでは分からないかもしれない(ごめんなさい)。

シンガーが「クィア」な感じに描かれているのもいい。その彼が煙草の煙と同じようなゆっくりのトーンで歌いだす。そして

God only knows what I’d be without you

君ナシの世界がどんなものなのか、神様しか知らないから

のところになると声を少し裏返してお腹の底から声を出し、抑揚と情感たっぷりに歌い上げる。

そこはもう異空間だ。歌と、自分と、自分の脳裏に浮かぶものだけしかない。

「このシンガー誰?」と思ってググってみると、同じ気持ちだった人は多いようで、その手の検索がたくさんでてきた。NYを拠点にしているシンガー&コメディアン&アーティストのピーター・スミスが本人っぽい役で演じている。

フランは涙をこぼしはじめる。アニーも最初は笑顔だったが、聴いているうちに表情が変わる。観客は皆、自分に照らし合わせて歌を噛み締める。そして歌に聞き入るアニーがじっとシンガーを見つめている姿がアップになったところでエンドクレジットが流れた。

その澄んで力のある歌唱力に、映像を見ている私も「すごいな…」と時が止まったような気持ちになった。

どうしようもない「救われた」感。「癒された」感。

どっからくる!?

彼の歌、スゴイ。

そしてエンドクレジットが流れ出すと

え~、この感じをどうしたらいいのよぉ~

と心がおさまらなくなった。心を持ってかれたのに、突如1人置き去りにされた感MAXに。

さらに眠れなくなったので、再度最初から見直した。

濃い目に作ったハイボールみたいに、この歌、沁みるな…

と思ったところで気づいた。

「こ、これって、ビーチ・ボーイズじゃん!?」

コチラが本家です。

誰しもが聞いたことがあるメロディー。超有名かつ名曲だ。「God only knows what I’d be without you♪」のところで普通なら気づくよねえ。

気付くの遅すぎ。

自分でも呆れる。

この曲大好きなのに。

アホすぎ。

でも気付かなかった。

だって全然別モノだったから。

曲そのものを久々に聴いたってこともあるのだが、別物として聴いた上に感動までしてしまったぐらいで。

ドラマのこのシーンに入り込んでしまったこともあるが、歌詞が文字で見えるように歌うことができ、映像の向こうの人までも巻き込む、ピーター・スミスの歌唱力がビーチ・ボーイズを思い出させなかったんだろうなあと。

ミュージシャンってすごい。
シンガーってすごい。

いかようにも料理できるんだ。

「Shrill版(ピーター・スミス版)」の「God Only Knows」は苦いハイボールだが、ビーチ・ボーイズ版のオリジナルは、私にとって「万年のほろ苦いアイスコーヒー歌」だ。

「苦い」っていうところだけ、やや似ている。

この曲はブライアン・ウィルソンが精神的に破綻する前のアルバム『ペット・サウンズ』に収められた曲だということは“後付け”で知った。商業的には成功したアルバムだったということも“後付け”で知った。

しかし私のこの曲に対する印象は、“後付け情報”を知る前も知った後もあまり変わらない。

爽やかな潮風がそよ吹く、美しい風景に生きている若者の恋愛の歌だ。彼女もいるし、まあまあフツーに生きている。でも目の前の女子のことよりも、彼の頭をしめているのはもっと人生に対する漠然とした憂いなんだと思う。

全然幸せそうな曲に聞こえない。

世の中は不安に満ちている。そのことがサラッサラのそよ風を、彼の周りだけ風を重たくしているように聞こえる(少なくとも私には)。

こういうヤシの木の写真を見ると、映画「レズ・ザン・ゼロ」を思い出す。アンドリュー・マッカーシー、お元気かしら…?

苦いアイスコーヒー。氷をストローでカラカラと回し、少し啜っては「空だけは青いよね」「でも、ずっと青いわけじゃないかもしれな」と思っている。「イケてる俺になりたい」ってわけでもないし、中2病になれるほど青いことを言いたいわけでもない。 悩める男子がそんな苦くうつろな日々をもがいている歌。

中2病は、ホントに「中2+5年」ぐらいまでであればはある意味幸せな病気だと思っている。でも長く続けてしまって、そこから脱せないとそれは不幸の始まりかもしれん…。

だからこの曲には神々しさが宿っているんだと思う。

こないだまでの「ビキニのいけてる姉ちゃんおっかけてサーフィンやってた男の子」のままじゃ、「神のみぞ知ってる…」なんて曲は書けないし歌えないから。

そういえば、ブライアン・ウィルソンがやたらと闘志を燃やしていたと言われるビートルズが、やたらとマリア様が出てくる「Let it be」を歌ったのは、「God Only Knows」の4年も前。ブライアン君の方がポール君よりも先駆けていたのに、この時代はブライアン君の方が何だかつらそうである。

今回「Shrill版」を見聞きしたのでちょっとググってみたら、こんなシャンパンみたいなバージョンの「God Only Knows」が出てきた。

アーティストの名前はコチラのリンクで見ると分かります。基本超有名人ばっかですが、意外な人もいるな―とも思いました。

これには憂いも悩みも、何もない。 BBCがお金をたっぷり使って、 キラキラなスター様と一緒に作った超高値のシャンパンだ。

地位も名誉もお金もありまくるセレブさまたち。彼らが考える「愛(みたいなもん)」を「人にも分けて“あげたい”♡」とやや上から目線で思い、高い場所からフルートグラスに上手に注いている。そんな風に美しく歌い上げている。

ちょっとディスってますが、ジェイク・バグはちょっと別枠にしてもらっていいですか?とも思ったり(笑)。

これはこれでいいんですよ、美しいから。プロデュース側の勝利だ。

よどんだ空気の中にいるアイスコーヒー青年はシャンパン・スター版では救われないような気がするが、でも歌う人、演奏する人、そしてプロデュースする人で歌ってこんなに変わるんだなあと改めて思わされた。

音楽の変容力、そして歌い手の力を見せてくれた「God Only Knows」体験だった。

===

苦いアイスコーヒーは若い時代の私を救ってくれたが、苦いハイボールは歳を取って、また別の境地にいる今の私を癒してくれる。聴く側の置かれた場所でも受け取り方は変わるものだ。

そういえば、最近、氷川きよし版の「ボヘミアン・ラプソディー」を聞いたがなかなか良かった。

ふっきれたキーちゃんが、優しい顔で吠えていた。

フレディのそれとは全然違うけど、すごくよかったな。

きっとキーちゃんの『ボラプ』は、フレディの『ボラプ』が届かなかった場所にいる人達に届いて救ってくれるはずだ。

ビーチボーイズのアイスコーヒーとピーター・スミスのハイボールが、違う時代の違う私を救ってくれたようにね。

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