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20206/17

【コーヒーと本】うだる暑さの日に読みたい、身も心も凍る本『凍』by 沢木耕太郎

よく「体を動かすのが好き♡」という人に会うのだが、私はこういう人の気持ちが全然・まったく・ミジンコグラムほども理解できない。

なぜなら私は体を動かすのが大嫌いだからだ。何ならずっと座って生きていきたい。パソコンと本とマンガあって、食料が持続的に供給されるのであれば、1年ぐらい家から出なくても多分大丈夫だ。(だから、今回のロックダウンは全然辛くなかった)。

「体を動かすのが好き ♡ 」という人は、そもそも私とは生まれたときから出来が違うのだ。もともと体が運動を欲するようにできているか、運動が「楽しい」と感じるぐらい得意か、そのどちらか1つがないと体を動かすことを積極的に「好き♡」になんかなれないと思う。この点において私は「別に運動を欲さない体と性格」な上に「運動が絶望的に不得意」なのだから、一生「体を動かすのが好き♡」なんてことにはならないのは既に決定している。

実は健康のためだけにここ数年地獄の重いで走ったりしているのだが、大変つらい。全然楽しくない。ただ健康のために忍耐を積み重ねているだけだ。この辺の話は別の機会にたっぷり書きたい。運動には恨みつらみがありすぎるので。

数ある体を動かす活動(スポーツ)の中でも、もっとも理解できないのが「登山」である。

坂道を上るのだってつらいのに、なぜもっとすごい急勾配やら岩壁やらを登り続けたい人がいるのだろう?

だってずーーーっとずーーっと上に登っているのよね? 登っている間中、ずーっとツライのよね?

しかも本気の登山を思うとき、寒さ・雪崩・天候・凍傷・落石…等々、辛そうでおっかなそうな言葉ばかりが思い浮かぶ。

そこに山があったって、私は絶対登らないよ!

と思っているのだが、実はなぜか「登山家のドキュメンタリー」を見るのは好きなのだ。なんならかなり頑張って探して視聴するぐらい好きなのだ。

そういえば、将棋のルールを憶えられなかったのに、将棋の関係の本とかドキュメンタリーとかマンガは好きなのです。同じことなのかも。

なぜなんだろう?

===

『凍』( 沢木耕太郎・著) は、登山家である山野井泰史・妙子夫妻がヒマラヤの高峰・ギャチュンカンに挑んだ壮絶な体験を綴った長編作品である。

凍 (新潮文庫)

↑『垂直の記憶』も早く読みたい。しっかしすごいタイトル。垂直…。

実はこの本を読む前から山野井夫妻のことは知っていた。夫妻を描いたドキュメンタリー番組を数本見たからだ。

↑こちらのNHKスペシャルも視聴しました。このお二人が山野井夫妻。

印象に残った言葉がある。

泰史さん「山登りっていうのを知った時から、ずーっと発狂状態みたいな感じなんだよね」(「情熱大陸」より)

妙子さん「価値観は一緒じゃないかな。山に行くことに関してはお金は掛けるけど、他の事はどうでもいいんです(笑)」(NHKスペシャル「夫婦で挑んだ白夜の大岩壁」)

“他の事はどうでもいい”なんて、簡単には言える言葉じゃない。だからこそ彼らのただ山だけを見つめるまっすぐさが心に刺さる。そして、羨ましくも思う。

寒くて厳しくて痛くて大変で死ぬかもしれないことを嬉々として笑顔で挑む。しかもそれが私が全く理解できない「登山」だからこそ、濁りのない思いが輝いて見える。

===

そんな前情報があった上でこの本を読んだが、文字で読むと映像とはまた異なる驚きと感触があった。

ギャチュンカン の北壁は氷の壁。登山というより「登氷」である。

氷壁を登っていた2人だったが、大きな雪崩に遭遇する。何とか死は免れたものの、そこから生存を掛けた“凍”とのギリギリの闘いが始まるのだ。

とにかく寒いし、痛いし、読んでいてツラい。氷壁に打ち付けたハーケンにロープを通して2人でブランコみたいにぶらさがったり、凍傷でバンバン指を失ったりと、想像を絶する場面の連続だ。実話とは思えぬサスペンス感に溢れ、恐怖がひやりと背筋を貫く。

氷を長く触っているとだんだん痛くなってくる感覚は誰でも知っているだろう。あの何億倍もの痛みを感じた先にあるのが凍傷だ(経験してないけど、たぶん)。そう思うと、真夏に読んでも凍えてくる。手に汗を握りつつ、指先が冷たくなってくるような気さえする。

そんな壮絶な体験をしている2人なのだが、山野井夫妻は本の中でもドキュメンタリーでも、山を語るときにはケタケタと笑ったりしてただただ楽しそうだ。力を込めて「山が好き!」と握りこぶしで愛を語るのではなく、山と生きていくしかない人生を楽しんでいる(ように見える)。

だから「ウチラのことは、もうほっておいて」と言っているようにも見える。

すべてを受け入れてしまった2人ならではの飄々とした佇まい。まったく魅力的な2人なのである。

===

今年もきっと日本は猛暑だと思う。この痛いほど冷たい世界の物語を読むと、コーヒーカップから伝わる温かさでさえも有難く感じるだろう。ぜひ真夏に読むことをお勧めしたい。

そこに山があったなら登るしかない登山ジャンキーの気持ちが、少しだけ分かる作品だ。そんな人たちにちょっと憧れさえ抱いてしまう。

でも絶対に登山しようとは思わないけれど。

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