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20216/3

【ドラマ&映画】『ミナリ』のしみわたる包容力:ドラマ『アンオーソドックス』と映画『ミナリ』を見て思う事(少しだけネタバレ)

視聴したドラマと映画のレビューです。

ドラマ『アンオーソドックス』

4.0 out of 5

映画『ミナリ』

5.0 out of 5

Netflixドラマ『アンオーソドックス』を視聴したのは、SNSで流れてきた2つの画像に釘付けになったからだ。

この写真①↓と…

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The Talk Shop(@talkshop_nyc)がシェアした投稿

この写真②↓。

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Lor Wan Hao(@haowanlor)がシェアした投稿

①の写真は、ひとめみてユダヤ教の結婚式写真だと分かった。それは私はかつて長らくロンドンのユダヤ人街であるGolders Greenという地区に住んでいたことがあり、当時、この写真の男性が被っている大きな毛皮の帽子「シュトライメル(shtreimel)」をちょくちょく目にしていたからだ。

↓こういう帽子が「シュトライメル(shtreimel)」です。

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そして②の写真。髪を刈られる女性の狂おしいこの表情が胸に刺さった。1度見ると脳裏に焼き付く強烈な表情だ。

※ここから少しだけネタバレしています。読んで下さる方、ご注意下さい。

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『アンオーソドックス』あらすじ:
NYウィリアムズバーグ地区のユダヤ教超正統派のひとつ、サトマール派のコミュニティーに生まれ育った19歳の女性・エスティ(シラ・ハース)が主人公。見合いで結婚した夫との生活から逃げ出すため、NYからベルリンに身一つで渡る。そこで音楽家たちと出会い新生活に踏み出そうとするが、世俗を知らない彼女に様々な困難が降りかかる。

4話からなるこのドラマは、NYユダヤ人コミュニティーから逃げ出した19歳の少女の旅路に加え、あまり知られていないユダヤ教超正統派(オーソドックス)の習慣や生活が描かれている。

このドラマを見て、思い出したことがある。私はユダヤ人街に住んでいた時に、道ですれ違う女性たちの髪の毛にずっと違和感を感じていた。不自然なぐらいツヤツヤで、みんな剛毛っぽい。そして髪型も髪の色もとても似ている。

「なんだか、髪の毛を『のっけてる』みたい」

と毎度思っていた。

その「違和感」が何なのか、このドラマで初めて知った。

「のっけてるみたいなもの」は、カツラだったのだ。

「のっけてる」とまで思っていたのに、カツラと気付かなかった私も間抜けだ。しかしなぜカツラなのか?をそもそも知らないので、カツラだと思いつかなかった。

ユダヤ人街に住んでいたことがあってもこのレベル。このドラマを見て、私はユダヤ教についても、ユダヤ人についても何も知らないに等しいのだと改めて思った。

ユダヤ人はユダヤ教を信じてる人たち。ユダヤ教の聖典は「旧約聖書」と「タルムード(※)」。超正統派ユダヤ教徒とは、この2つの聖典からの教えを厳格に守る人たちだ。

タルムードとは?
モーセが伝えたとされる口伝律法が書かれた書物。ヘブライ語版のみ聖典とされる。ユダヤ教の多くの宗派でタルムードが聖典とされるが、聖典と規定していない宗派もある。

ドラマには厳しい戒律が登場する。視聴者の多くが「そりゃ、逃げ出したくもなるよね」と思うだろう。戒律だけでなく、女性の権利がほぼないように見えるからだ。私もそう思った。

「逃げ出す」ことについては私も同感だが、私の中にはそれだけでは済まないちょっとモヤっとしたものが残った。

私はクリスチャンなので信じる神がいる点ではユダヤ教徒と同じだ。しかもキリスト教においても旧約聖書は聖典であり、共通する部分はいろいろある。

神がいる人生には、多少のルールはつきものだ。私はリベラル・クリスチャンを目指しているので「ほぼルールはない」と思っていたが、夫のヒト(結婚前)に「クリスチャンであることで、人生が複雑になっているように見える」と言われたことがある。

言われた時はけっこうびっくりした。

わたしは神を信じることで、自由になれると思ってクリスチャンになったのだが(そして私の場合は本当にそうだったのだけど)、確かに外側からみれば「ある程度ルールに縛られている」と思う場面もあっただろう。まあ、確かに。宗派にもよるけれど、基本的なことで言えば「皆にとっては丸っとお休みの日曜日に教会に行く」こともその1つだ。

だから『アンオーソドックス』を見て多くの人が思うであろう「信仰生活の息苦しさ」「閉塞感」は納得だ。しかし私には宗教や信仰のある生活を肯定したい気持ちもある。なのでその辺グルグルしてしまい、苦しい気持ちになってしまった。

ポッドキャストでもこの話をしたけれど、上手くまとまらなかった。長々話してしまったのは、うまいこと肯定するだけの言葉が見つからなかったからだ。

↑ポッドキャストです

ついでに言えば、ドラマとしてはちょっと詰めが甘い部分はあったと思う。物語的にはつじつまが合わない&あまりに都合よく話が進む部分が多かった。でも、それを越えるぐらい「ユダヤ教の慣習いろいろ」を垣間見れたことが興味深かった作品ではあった。

…と「面白い!」と思っているのにモヤモヤを残して『アンオーソドックス』を視聴し終えた。

その後、ずっと気になっていた映画『ミナリ』をわりとすぐに見た。

『ミナリ』あらすじ:
1980年代、アメリカ。農業で一旗あげたいという夢を実現するため、韓国系移民ジェイコブは、妻のモニカと2人の子供と共にアーカンソー州に引っ越してくる。何もない荒れた土地でトレーラーハウス暮らしは始めた一家。ジェイコブとモニカはヒヨコの雄雌鑑定の仕事と農業を掛け持ちしていたが、ほどなくして子どもの面倒を見てもらうため、韓国から祖母を呼び寄せる。暮らしは少しずつ落ち着くかに見えたが、ある日予想もしなかった事態が押し寄せる…。

見終わったとき、『アンオーソドックス』に感じたモヤモヤが一気に消え去っているのが分かった。そしてとてもとても救われた気持ちになった。

映画は後半まで淡々と進む。特に大きな事件は起こらない。でも飽きることなく見続けてしまうことに、まず1つめの凄さを感じた。

映像は文句なしに美しい。でも美しい映像に目が奪われて…というのでもない。滝とか密林…みたいな「ゴージャスな大自然」を舞台にしているのではないからだ。「淡々と進む」なかにもちょっとした機微や散りばめられているので、そのまま吸い込まれるように見続けてしまうのだ。

ちょっと不思議な感覚である。主人公一家の時間軸に「のっかる」感じだった。

そして見ている途中に思った。「すごく良い映画のようだけど、この作品、よく映画化されたなあ…」と。

出来て見れば素晴らしい映画っぽいけれど、この映画の企画ってどうやって通すのか想像できない。

私は以前、映画の企画売り(pitchといいます)の仕事をしてた時期がある。いかに企画を通すのが大変か、そして企画段階でお金を引き出すのが大変か、それなりに経験しているのです。

日本版公式サイトには下記のように書いてある。

『ムーンライト』や『レディ・バード』など話題性と作家性の強い作品で今やオスカーの常連となったA24と、『それでも夜が明ける』でエンターテイメントの定義を変えたブラッド・ピットのPLAN Bが、その脚本にほれ込み、強力タッグ!

映画『ミナリ』Gaga公式サイトより https://gaga.ne.jp/minari/

「脚本にほれ込み」!!??

このひたすら淡々と進む話の脚本にほれ込むって、想像できない。文字だけでこの吸い込まれる映像美をブラピ(とその周りのひとびと)が理解したってこと? この「淡々」は映像の力と脚本がタペストリーのように織りなしているからこそだと思うのだけど、映像化が決定する前には当然脚本で企画が通っているわけで。

よほど脚本のト書きが凄いのか?
奇跡のような映画かもしれない…。

↑本作でオスカー助演女優賞を受賞したユン・ヨジョンさんとエグゼクティブ・プロデューサーのブラッド・ピット。彼女の受賞スピーチも良かったです。

…と余計なことを考えてしまうぐらい、静かに物語は進むのだ。でも「ゆっくり」進むわけではなく、テンポがあるのでそのまま「ふむふむ」と思って見続けていく。「何も起こらないなあ」とかも別に思わない、不思議な感覚で進んでいく。

もう1つ「スゴイ」と感じたのは、直接的な説明は1つもないのに、人の善意の力と、その源になった「何か不思議な力」の凄さをじわじわと、でもしっかり肌から浸透するように伝えていることだ。

ネタバレ最小にするために抽象的な言葉でしか書けないが、『ミナリ』には地味だけれどユニークな登場人物が何人か出てくる。後半になって彼らの存在の理由がだんだん分かってくる。そして事件が起こったとき、普段は見過ごしていた人間の善意に気づき、無償の善意を与えられる人の「奥底にある、何らか信じる物」の存在に気付くのだ。

『ミナリ』にでてくるあるユニークな登場人物には『あれれ!?』と思う程度のややToo Muchな信仰がある。その辺がやや滑稽に描かれているのがまたいい。

そこのことを、押しつけがましくなく、でもしっかりと描いていることに私自身が救われた。特に『アンオーソドックス』で宗教も持つつらい部分を突き付けられた後だったので、余計にそう思った。

滋味深くしみわたる優しさと圧倒的な包容力のある作品だ。今年見たなかで文句なしのナンバーワン。

なかなかできないけれど「優しくありたい」と改めて思わせてくれた。そして「信じることで人を縛るのではなく、善意の根底になること」と思えたので、わたくし的に大変救われた作品だった。

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