© matka All rights reserved.

サブリナ

20205/11

言葉にならない感情が込められた線。グラフィックノベル『サブリナ』

このところ、積読を解消すべく読めていなかった本をガンガン読んでいこう!とひとり息巻いているのですが、本ってそんなに「ガンガン」読めないもんですね。単に集中力が落ちているのか、視力が落ちているのか、読書の習慣がなくなっていたせいか…。そこで、グラフィックノベルやマンガを間に挟んでみることに。

だがしかし!このアメリカのグラフィックノベル『サブリナ』はそこいらの本(失敬!)より集中力の要るノベルだったのです。ただ、世界観に引き込まれてしまい、アイスコーヒーの氷も溶けるに任せて、グイグイと目を見開いて新感覚ノベルを堪能しました。各所で話題の本ですが、感想を書いてみました。

キリリと冷えたアイスコーヒーとともに

『サブリナ』 ニック・ドルナソ
2019年 早川書房

『サブリナ』は、現代アメリカを舞台に、サブリナという普通の生活をしていた女性が仕事帰りに突然失踪し、残された親族や彼氏やその友人たちを描いたグラフィックノベル。グラフィックノベルでは初めてブッカー賞にノミネートされている。

私はこんなに丹念に1コマ1コマを凝視するようなマンガ(グラフィックノベル)に出会ったことはなかった。そもそもアメリカのマンガを読むのは初めてかもしれない。なぜそれほど凝視するかというと、読んでる間中ソワソワとゾクゾクの間を漂いながら、えも言われぬ緊張感を持続しながら進んでいく本だからである。この本を読んでいる自分を客観的に見たときに、表面上は冷静であるのに、絶えず心電図の針が細かくときに大きく上下しているような状態といえる。そう、この本に出てくる人物たちのように。

失踪したサブリナの彼をしばらくの間預かる、昔の友人。
親切な友人と彼との間の関係。決して言葉にはできない感情はグラフィックノベルにしかできない表現で、私は今までにどの媒体でも、どの作品でも味わったことのない感覚に衝撃を受けた。

一定の大きさのフォーマットで区切られたコマには、とにかくシンプルな線で背景と人物が描かれている。表情もほとんど変わらない。ただ、シンプルゆえに際立つ背景の奥行きや距離や、人物の表情の口のほんの少しの歪みによって、読者はそこにある意味や感情を模索することになる。
しかし、「何事にも意味を求めがちな」もしくは「意味がなければ納得できない」と考える人々によって、現実が歪められているということをこの本は皮肉にも突きつけてくるのである。それは誰しも例外ではないことも。

この本のこんなにも先が読めず、どこに連れて行かれるかもわからない不安定さはまさに現代の現実そのものだと思う。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

podcast271

【podcast271】2024年「新語・流行語大賞」30の候補 について、あれこれ話す

久しぶりのポッドキャスト、気がつけば2024年も残り少ないので、恒例の「新語・流行語大賞」についてあれこれ斜め目線で話してみました。30候補について話しているのでやや長いですが聴いていただけたら嬉しいです。

202410/26

【podcast270】20年ぶりの国民審査&10月27日は投票日です。

10月27日はいよいよ衆議院選の投票日ですが… 忘れてはいけない「国民審査」もございます。今回の選挙から、在外投票でも国民審査ができることになりました。

【podcast269】NHK朝ドラ「虎に翼」終わってしまいましたが、まとめ感想。

録音日は次の日がNHKドラマ「虎に翼」の最終回前ということで、半年間楽しみに視聴してきたマトカの2人で感想をあれこれ話してみました。終わって1週間経ちましたが、聞いていただけたら嬉しいです。

【podcast268】新しい同居人到着!(ロンドンで部屋貸し)

このポッドキャストで話したことがあるのかないのか…忘れましたが、今の家に暮らして2年。1部屋を「部屋貸し」しています。

【podcast267】選挙関連おすすめエンタメ

2024年は日本国内外、数々の選挙が行われる選挙イヤーということで、どうせなら選挙気分を盛り上げるエンタメを選んでみました。

ページ上部へ戻る