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【映画のはなし】バラの紅茶を飲みながら見る天国と地獄『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』

「ファッション映画」というジャンルがある。具体的には ファッション業界を舞台にした ドラマ(『プラダを着た悪魔』)やドキュメンタリー(『メットガラ ドレスをまとった美術館』『ディオールと私 』)のことだ。私はときどき映画紹介記事を書いたりしているのだが、 『プラダを着た悪魔』 については何度書いても読まれるようだし、繰り返し視聴されているようだ。

ファッション映画は美しいシーンが多いから何度見ても目で楽しめる。ガッツリ新作を見る元気もなく、でも何か安心出来るきれいな映画がみたいな~と思ったとき、この手のファッション映画は好都合なんだと思う。

私にとっての「何度見ても楽しめるファッション映画の1本」になるかな?と思ってみたのが、この作品だ。

マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年

しかし、実際にはもう少し苦みを感じた作品だった。

===

マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』は靴デザイン界の大御所マノロ・ブラニクのドキュメンタリー。予告編がコミカルで色味も美しい。なんだか楽しそうだなと思いずっと「見たい映画リスト」に入っていた作品だった。見てみると想像通りの軽快なタッチで作られていて、すっと映画の世界に引き込まれた。

ファッション界の重鎮たちが続々登場する華やかな映像。ブラニク様のこれまでと現在、生活(ちょっとだけ)、そしてデザインと靴づくりへのこだわりを描いているのだが、彼のコミカルな語り口やしぐさが可愛らしく、カラフルな靴もたくさん登場し、登場人物たちのファッションも美しい。

…と「楽しく美しい映画」と言えないこともないのだが、この映画はただの綿菓子映画ではないのである。冷静にみると圧倒的な美意識を持って生まれてきてしまった男の地獄も垣間見える作品なのだ。

チラチラと映る自宅は、どこを切り取っても美しい。そして当然だが(撮影中、というのもあるのだろうが)普段着や作業着にまでがとにかくおしゃれ。ポケットから見えるチーフ、蝶ネクタイ、メガネの色や形。すべてが計算された組み合わせだ。

その日誰と会わなくても、ブラニク様はきっと素敵にコーディネートされた服で1日を過ごしているはずだし、パジャマだっておしゃれかつ選び抜かれた一着なはずだ。それはブラニク様 がブラニク様であるために、絶対必要なことなのだ。

ブラニク様の住まいは、彼に「存在することを許されたもの」だけで構成されている。だから誰かと同居しようなんて、考えたことがないという。世の中的には多くの人に囲まれ、華やかな生活を送っている人、というイメージがある。しかし誰にもシェアできない圧倒的な孤独を胸に秘めているはずだ。きっと彼は「美の巨人であるがゆえの孤独」をしっかりと受け止め、自分の城を築くことで「汚い外界」と「崇高すぎる美意識」の境界線を守ってこれたのだと思う。

自宅の庭いじりをしているシーンが1番好きだ。美しく、おだやかで、でもブラニク様の地獄と孤独がにじみ出ているような場面だった。

花をモチーフにしたデザインの靴をたくさん作っているブラニク様には、バラの紅茶が良く似合う。

滅多に使わないちょっとお高級なティーセットを使い、丁寧に入れたローズティーを味わいながら、もう1度この映画を見るとしよう。 バラの花びらだけでも美味だけれど、 苦みと甘みの両方がふわりと香る、 紅茶とブレンドしたローズティーの方が私は好きだ。

紅茶も、映画も、そしてブラニク様も、かぐわしい香りの下に、しっかりと苦みを秘めている。だからこそ、魅惑的なのかもしれない。

おまけの感想:
そういえばパンプスも、履くのは痛いけど、でも美しい。痛みを我慢するのを選ぶのか、そこから解放された方が心地よいのか? どちらの人もいるだろう。大事なことはどちらかを「自分で選べる」ことなのよね、ということも、この作品を見ながら思ったことだった。

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