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202012/3

【ドキュメンタリー】何年経とうと美化してはいけない:Nスぺ『三島由紀夫 50年目の“青年論”』、ETV特集『転生する三島由紀夫』

ドキュメンタリー作品が大好きです。ものすごい本数見ているので、「ドキュメンタリー愛好家」を名乗ることにしました。これまでに見て心に残ったドキュメンタリー作品を紹介・記録するアーカイブ。素晴らしすぎて書かずにいられない作品を書き留めます。日本とイギリスの作品が多いですが、国を問わずどん欲に見ています。

三島由紀夫が自衛隊市ヶ谷駐屯地で自殺したのは1970年(昭和45年)11月25日。没後50年、2本の番組をNHKが放送したので視聴した。

■NHKスペシャル『三島由紀夫 50年目の“青年論”

3.0 out of 5

■ETV特集『転生する三島由紀夫

4.0 out of 5

===

私は三島文学の愛読者では全然ない。完読したのは『潮騒』と『金閣寺』だけ。

しかもどちらの読後感も「そんなに好きじゃない」だった。

今読むとまた違う感覚なのかもしれない。『仮面の告白』は図書館で借りて、読み終わらないうちに返却期限が来たので返してそれっきり。再度借りなかった記憶がある。LGBTQ+が一般的になり、しかも周りにも当事者が多い環境で暮らしているから改めて読んでみようかと最近思うけれど、現在の視点から読むとイライラするような気もしないではない(でも読んでみるつもり)。

というわけで、三島文学を語る資格はまるっきりない。でも三島を語るとき、文学作品への評価と、彼の人物像、特に「晩節を汚した」(と私は思っている)死に方とは区別すべきだと思う。

私は三島文学にあまり興味がないから、興味があるのは後者の「晩節」の方だけだが。

「どうもこの2つの番組は、三島を礼賛する系なのでは?」と広告をチラ見している段階から思っていた。あまり私好みの番組ではなさそうだが、「晩節」がどのぐらい出てくるのかが気になったので見ることにした。

↑三島、最後のとき。

===

平たくいうとNHKスペシャル『三島由紀夫 50年目の“青年論”』の方は、強面のタカ派&傲慢な天才作家のイメージがある三島だが、実は晩年、青年に優しい眼差しをむけていた、という「三島、良い人だった節」の宣伝のような内容。

ETV特集『転生する三島由紀夫』は、舞台、行動、肉体、そして輪廻転生(この4つの視点から三島文学、舞台作品、盾の会、肉体へのコンプレックス等について分析。当時交信のあった人達に取材している番組だ。

先に『三島由紀夫 50年目の“青年論”』の方を見て、個人的には大変嫌な気持ちになった。三島と関わった人たちの「三島は良い人だった」的コメントが多すぎる。特に晩年、大学に出向き若者と対話していたことを紹介するくだりは「大作家にもかかわらず、若者に対する三島の態度は常に真摯なもの」とのナレーションがつく。

そうだったのかもしれない。人はいろんな面を持つものだから。

でも番組内に終始一貫して立ち込める「三島は実は良い人」感が「三島神格化」につながる気がして、とても気持ち悪かったのだ。何も前情報がない若者がこの番組を見たら、三島を「引き締まった体の優しいおじさん」と思う人もいるかもしれない。

三島はそんなんじゃない。テロリストだよ。

私は三島の死に方は「サイテーだ」と心底思っている。割腹自殺した(自殺は「する・した」であって、絶対に「遂げた」ではない)とき、若い仲間を道連れにした。そして関わった3人を罪人にした。

40代になったころ、三島は

文豪として死ぬか、英雄として死ぬか、その岐路に来た

と語ったそうだが、死にたければ1人で死になさいよ、と思う。

1人で死にたくないから、人を巻き添えにした弱虫だ。

この意味で、太宰もひどい。しかも1度心中に失敗しているので、女性を2人殺している。

『三島由紀夫 50年目の“青年論”』は三島の「人となり」をかなり美化することで、自殺にまつわる迷惑と責任をぼやかしている。その部分が不快だった。

こんな感想を持ったので、ETV特集『転生する三島由紀夫』を見ようか迷った。番組宣伝で俳優の東出昌大が熱っぽく語っている様子もチラ出ししていたしなあ。三島文学を礼賛するのは良いが、私は現在その部分に関心がない。

しかし盾の会の元メンバーへのインタビューがあるというので、その部分だけでも見たいと思い視聴した。

結果『転生する三島由紀夫』の方が、私にとっては断然面白かった。特にすっかり老人になった盾の会のメンバーへの取材部分。彼らに「現在も皇国主義なのか?」とか、「当時のことを今どう思うのか?」等をもっとしっかり聞いてほしかったが、その部分がなかったことは不満ではある。

この番組でも皆一応に三島の「人となり」をほめたたえているが、メンバー自身が「自分の中で盾の会が終わった」と思ったときの話や、その後の人生でずっと盾の会のことを考え続けてきたこと等を語るくだりは、本人にしか語れぬ「歴史とその後」の生々しい証言だ。

===

死んで50年。彼の文学が改めて注目されている。彼の文体と耽美な世界観が好きな人は多い。それは別にいい。

でも「人間・三島」を今ちやほやすることには違和感がある。

「もう死んで50年。今さら、なんら影響がない」という人もいるだろ。

でも…そうだろうか?

今日本は、と~っても危ない時期に差し掛かっている。憲法改正は自民の政治家だけでなく、三島の悲願でもあったのだ。憲法誕生のなりたちを知らない世代(まあ、私もそうなのだが)が三島を神格化することの危険性。死んでいる彼が幻の輪廻転生を果たしてアイドルとなると、もっとも大切であるはずの平和から目が逸れてしまう。

「若い世代に今注目されている」みたいな陳腐な言葉で、彼の晩節を美化してはいけない。文学と事件は別だ。彼の自殺は事件だ。身勝手な殺人。事件は事実として知り、そしてそれぞれが思いを巡らすもの。美しい文学の包装紙で包み込み、事件をきれいごとにしてはいけないと思う。

===

ここからは少し余談。

三島の自殺で最大に迷惑をこうむったのは、あの日、あの場にいた盾の会メンバーの家族と、三島の家族だと思う。

三島は妻に自殺の計画を告げずに家を出たと言われている。残された子どもは当時娘11歳、息子は8歳。

2つの番組を見ながら、(番組には全く登場しない)三島の2人の子どものことが気になって仕方なくなった。

視聴後、彼らの人生について調べようとしたが、ネットで調べられる情報があまりなかった。しかし「三島の子ども」として生きざるを得なかった様子が少しだけ見えた(※もし誤解だったら、ご遺族、すみません)。

父の莫大な印税が入り続けることで、生活にはきっと困らない。でもだからこそ妬まれたり揶揄されたりの辛さもあったはず。

彼らは父のことをどう思っているのだろうか?

NHKアーカイブスはこちらから。

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