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【映画のはなし】トーベ・ヤンソンが教えてくれた「ムーミン」以外のこと。映画『Tove(トーベ)』(ややネタバレ有)
英国映画協会(British Film Institute)が毎年開催しているLGBTQ+映画祭「BFI Flare」。今年も2021年3月17~28日まで開催された。ロックダウン中なのですべてオンライン上映であり、プレス試写もすべてオンライン。家から見られるので有難い。
数本の作品を視聴したが、もっとも楽しみにしていたのはこの作品『Tove』。タイトルからも分かるように、ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンの伝記的映画である。トーベは1914年生まれ。映画は第二次世界大戦中~50年代まで、彼女の20代後半~40代と思われる時代を描いている。
↓ここから「ややネタバレ」しています。ストーリーラインについてはあまり書いていませんが、トーベについて何も知らない状態で映画を鑑賞したい方はご注意下さい。
ムーミン誕生についても触れている作品だが、映画の主題はトーベの性的指向の揺れ動きについてだ。
トーベがレズビアンであったこと、生涯のパートナーであったトゥーリッキ・ピエティラの存在は広く知られている。私はこの映画を見るまで、「トーベはレズビアンだった(以上!)」という印象で、それ以上の事は何も知らなかった。しかし映画はもう少しトーベの性的指向に踏み込んでいる。
↑右がトーベ、左がトゥーリッキ。
彼女は男性の恋人/婚約者がいた時代があり、同時に女性にも魅かれていた。時系列がどのぐらい正確に描かれているのか不明だが、トーベにとって性的指向の境界線はとても曖昧、というか「ない」のだと映画を見て思った。このことがドラマティックではなく、とても自然に、かつ分かりやすく表現されている作品だったのがとても興味深かった。
↑トーベと舞台監督のヴィヴィカ・バンドラーとの恋愛も描かれている。
↑ヴィヴィカ(左)とトーベ(右)。
私たちは何か新しいことを知ったり、今まで考えた事もないことについて思いを巡らすとき、自分にもっとも分かりやすいロジックを見つけ出そうとする。「つまり、こういうことか」と納得し、理解した気になる。
それが正しいこともあるが、事実はもっと、自分の想像の範囲を超えて複雑であったり、枝分かれしていることも多い。後になって「自分に都合よく解釈していた」「分かった気になって断言・断定していた」ことに気づき、「おお、なんとまあ恥ずかしいことよ…」と思うこともしばしばある。
性的指向をカテゴリーに分け、「ヘトロセクシャル」「ゲイ」「レズビアン」「バイセクシャル」と言いがちだが、2つ以上にまたがっているときもあるし、どれと言えないこともあるし、変わっていくこともある。
それも含め性とは多様なもの(性の多様性)…なんてことは分かっていたはずなのに。この映画を見て「おお、なるほど」と思うぐらい、私自身が「決めつけていた」ことを理解した。改めて恥ずかしいが、でもそういった意味でも見て良かった作品だった。
さりげなく、軽(かろ)やかにジェンダー指向について描いている。「軽い」のではなく「軽やか」。これは簡単そうで難しいと思う。しっかり深く描写しているが、性はあくまでトーベの一部分であり「すべて」ではない。活発で意思の強い女性として描かれているトーベの人生の「ある時期」として、自然な形で捉えている。
この辺に、ザイダ・ベルグロス監督の力量が伺える。
↑フィンランド人映画監督、ザイダ・ベルグロス。
性の事ばかり書いたが、ムーミン好き、トーベのファンにもたまらないシーンが多い。ムーミンのイラストをメモに書きつけるシーンは、当時のトーベの心理描写と重ねて描かれているとても印象的なシーンだ。当時のフィンランドの雰囲気やインテリアの中で描かれているので臨場感がある。
↑『ムーミン』が舞台化された時のシーン。
加え、細部まで凝っているインテリアは、北欧ならではの佇まいが素敵。高い天井、大きな窓。クラシカルな壁のレリーフ。トーベの部屋の中で使われるアレコレ、そしてファッションもいちいち素敵なので、画面の端っこまでしっかり目を凝らして見てしまう。ヘルシンキの町やパーティー文化等の描写も憧れをそそるり、「ムーミン作者」としてだけではない、芸術家としてのトーベについても描いている点も重要だ。
日本では2021年秋公開予定とのこと。ムーミン好き、北欧&北欧デザイン好きの方だけでなく、ジェンダーも含め、幅広い層に訴えかける見どころのある作品だ。
人は皆、ちがう生き物。同じ人はいないし、好みもスタイルもいろいろ。当たり前のことなのに、いつもどこか型にはめてそれ以上考えることもしなかった。そんな「あれこれ」を改めて考えさせてくれた作品だった。
↑トーベ・ヤンソン。花飾りがとても可愛い。
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